第三節:光に包まれる研究者たち


 研究員たちはライトを頼りに研究所内を進んでいる。

 彼らは混沌とした状況の中で、恐怖と不安が入り混じった気持ちを抱えているのが見て取れるた。

 慎重に進む五人の目に、通路の奥に制御室の扉が見えてくる。


「制御室はもうすぐだ。頑張ろう!」

 今までの不安を払拭するかの様にエイダンは言う。


「そのようね」

 少し気が緩んだ感じでルイーズが答える。


 研究所内のライトが制御室の扉に照らされ、金属の光沢がその表面を顕にしていた。

 扉には重厚感があり、表面に謎のシンボルや模様が浮き出ているのが見て取れる。

 扉の前に立つ研究員達は、その扉が事態収拾に繋がる事を信じ開けようとしていた。


「この扉を開けて制御を取り戻さなければ。中が無事だと良いが……」

 そう言いう藤原の顔は強い意志と不安が見て取れる。


「そうね、この扉の向こうにも異形の存在たちがいるかもしれないわ。気を付けましょう」

 依然としてアンナは警戒するよう促している。

 

 エイダンがライトで扉の周辺を照らし、慎重に扉のハンドルに手を伸ばす。

 扉のハンドルに触れた瞬間、冷たい金属の感触が彼の指先に伝わってきた。

 彼はゆっくりとハンドルを回し始め、ギシリという音が響き、扉が徐々に開かれていく。

 扉が開くと、制御室の内部が明るく照らされ、コンピューター画面や制御パネルが整然と配置されている。

 室内は騒然とした外の状態とは対照的だった。


 周囲を確認しながらエイダンを先頭に一人ずつ室内に入って行く。

 書類の散乱や多少の機器の破損は有るが、まるで未曾有の異常事態とは無縁の様に見える。


「ここは……思ったよりも落ち着いているわね」

 ルイーズは落ち着きを取り戻し言った。


「制御室の中は異常がないみたいだ、しかし何故、ここには電気が来ているんだ?」

 疑問を抱き周囲を見渡しながら藤原は呟く。


「解らないわ、だけどここで制御を取り戻さない限り、街は……」

 室内に化け物が居ない事を確認し安堵したアンナは、そう藤原に答えた。


 制御室の内部に足を踏み入れた研究員達は、周囲の状況を確認しながら使用出来そうな機器を調べていた。

 制御パネルには異常の表示が点滅している。

 コンピューターのモニターには実験装置の状態が詳細に表示されているのが見て取れた。


「制御パネルを操作して、実験装置を停止させる必要があるかもしれないな」

 そう、言いながら、イブラヒムは睨むようにモニターを注視している。


「早く、制御を取り戻すための手順を見つけないとな……」

 キーボードを叩きながら、険しい表情でエイダンは呟いた。


 研究員たちは制御室内で自分たちの役割を理解しながら、実験装置の停止手順を探し始めた。

 キーボードを叩く音やマウスのクリック音が室内に響き渡っている。

 研究員たちは一丸となって制御室内で作業を進めた。

 コンピューターの画面に表示される情報を元に、実験装置の暴走を止める手段を見つけ出そうとしている。


「皆見てくれ、このコードを修正すれば実験装置の制御が可能になるかもしれない」

 そう言って、エイダンは画面を見ながら皆に声をかける。


 それを聞いてエイダンの後ろに皆が集まり、エイダンの説明を聞いている。


「時間がないわ、それで行きましょう。街がどんな状況かわからないのだし……」

 ルイーズは早足で席に戻りながら答える。


 皆がルイーズの言葉に頷いた。


 藤原はなにも言わず席に向かい。


「可能性が有るなら、やりましょう。少しでも早く制御を取り戻さないと……」

 そう言ってアンナは修正する為に急ぎ席に戻る。


「神のご加護がありますように……」

 イブラヒムも祈りながら席に戻って行った。


 研究員たちは時間との闘いの中で、制御室の中で手に汗握りながら作業を続けた。

 コンピューターの画面に表示されるデータが徐々に変化し、実験装置の動きに影響を与える兆しが見て取れた。

 しかし、修正したコードを入力し制御出来るかの様に見えた刹那、突如として強烈な光が研究所全体を包み込み始める。

 それと同時に彼らの周りが歪み始める。


「これは……何だ?」

 エイダンは困惑の表情を浮かべ制御室内を見ながら言った。


「光が……私たちに集まる?」

 両手の掌を見ながら呟いたルイーズも困惑と恐怖の表情を隠せない。


 研究員達はまるで異次元の力が彼らを引き寄せるかのような感覚を覚えた。

 次第に、その光の中で彼らの身体が不安定になって行く。

 それは、まるで微細な粒子にばらばらに分解されるかのような感触が全身に広がっていった。


「これは……異次元の力? 我々は何処かに引き寄せられている?」

 声を振るわせながらモニターを見て藤原は言う。


「止められない!! 何が起こっているの!?」

 そう叫ぶアンナは困惑と絶望の表情を浮かべながらも、必死にキーボード叩いている。


「神の御意志が示されたのか? 我々は運命を受け入れるしかないのか……?」

 諦めにも似た表情でイブラヒムは立ち上がりそう口にして天井を仰いだ。


 光の中で、研究員たちは次第に身体が不安定になって行く。

 その存在自体が分解されるような感覚を味わう。


 彼らの意識は混濁し、周囲の空間と融合していくかのような感覚と共に光に包まれていった……。

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