第14話 再会
ヴィライトの姿を見て、アンはすぐに走り出し、彼の胸に飛び込んだ。
(生きていた……やっぱり、ヴィライト様は、生きていた……!)
「ヴィライト様、ご無事だったのですね……!! よかった……」
「遅くなってすまない。予想外のことが起きて、約束に遅れてしまった」
ヴィライトはアンを抱きしめ、アンの頭を撫でる。
「謝らないでください。あなたが生きていた……それだけで……それだけで私は————……って、幽霊じゃないですよね?」
「まさか……違うよ。幽霊なんかじゃない。ほら、こうして君に触れることができる」
アンは安堵と嬉しさで涙が止まらなかった。
ヴィライトの顔をよく見ようと顔を上げたが、視界が歪んであまりよく見えない。
そんなアンの次から次へこぼれ落ちる涙を、ヴィライトは指で優しく拭う。
「よかった。本当に……エリクシアの言った通り、ここへ来て本当に……」
「そうだね。こうしてまた君に会うことができた」
「どこも、お怪我はしていませんか? ブレイブが……ヴィライト様の血がついた身分証を私に見せたのですが……」
「…………それは————」
血がついていたということは、少なくともどこか怪我をしているはずだと、アンはヴィライトの体を見る。
(怪我をしているなら、すぐに治療しないと……!)
黒いローブを着ているところ以外は、いつもと何も変わらない。
右の腰には短剣。
左の腰には第九騎士団団長が代々使っている持ち手の部分に龍の顔の銀細工が施されているロングソード。
腕や足に、怪我をしている様子も特に見受けられなかった。
「アン王女、そんなに見なくても、どこも怪我をしたりはしていないよ。大丈夫。それり、雪が酷くなる前に————」
(————あれ……?)
「あの、ヴィライト様? ドーグ島へ行ってから、ここへ来たのですよね?」
「え? ああ、そうだけど……?」
「それなら、ドルドさんの鍛冶場にも?」
「……ああ、もちろん」
(そうよね。エリクシアはドーグ島に行くようにって言っていたのは、ドルドさんの鍛冶場で私に短剣、ヴィライト様にはお兄様が使うはずだったあの剣を渡すためだった。でも……————)
「それなら、どうしてあの剣をお持ちじゃないんですか?」
「え……? 剣?」
(おかしい。何かしら……何かしらこの違和感。顔も声も、ヴィライト様なのに……何かが、違う気がする)
急にそんな気がして、アンは一歩後ろへ下がった。
近すぎてその違和感の正体に気付けないのだろうかと……
しかし、今度はヴィライトがアンの腕を掴み、引き寄せて抱きしめる。
「そんなこと、どうでもいいじゃないか。君とこうしてまた会えた。それだけで十分だ。そうだろう? アン王女」
(君……?)
—— 俺は、構いません。あなたを犠牲にするくらいなら、世界なんて滅びてしまえばいい ——
アンの脳裏に、ヴィライトの言った言葉が蘇る。
そして、気がついた。
ヴィライトの胸にあるはずのものが、ない。
(……ない。エリクシアがくれたリンゴの銀細工が……ない————)
アンはヴィライトの腕を振りほどいて後ずさり、先ほどよりも距離をとった。
「あなた、誰? ヴィライト様じゃないわね」
「えっ!? え!? えええっ!??」
側で二人の様子を感動の涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら見ていたマジカは、訳がわからず素っ頓狂な声をあげる。
どこからどう見てもそこにいるのはヴィライトなのに、一体どういうことなのかわからない。
「何言っているんですか、お姉様!? どこからどう見ても、ヴィライト様じゃないですか!!」
「違うわ……!!」
アンはヴィライトを睨みつけた。
「確かに見た目はヴィライト様だけど……声もそうだけど、違うわ!! リンゴの銀細工も、ドルドさんから受け取るはずのお兄様の剣も持っていない。それに————ヴィライト様は、私のことを君とは呼ばない」
これはヴィライトの姿をした、別の人物だと確信している。
「……なーんだ、バレたか」
偽物のヴィライトの声が、徐々に高くなっていく。
低い男の声だったのが、女の声に変わった。
「全てお前のせいだ、王女。逃げるなんて、私が許さない」
髪も漆黒から深い緑色に。
サファイヤの瞳は、琥珀色に。
体も黒いローブを着ていたヴィライトの姿から、真っ黒なスリットの入った体のラインがはっきり分かる短いスカートのワンピースを着た艶やかな女性の姿に。
偽物のヴィライトの正体は、ミラー・ジュエリー。
魔王デルビルを倒した勇者一行の一人、女盗賊だ。
「ミラーさん!? どうして、あなたが……」
「どうして? それはこっちが聞きたいわ、アン王女」
生まれつき土の魔力を持つ彼女の一番得意な魔法は、その名の通り
まるで鏡に映したように、人や動物の姿をコピーし変身することができる。
体の大きさも、声もオリジナルのものを完璧にコピーできる。
「あんたのせいで、団長は地位も名誉も奪われた。あんたのせいよ。あんたが、団長を誘惑したから————あんたのせいで、団長は何もかも失ったのよ!!」
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