第9話 王女脱走
「————そういえば、契約した者たちが助けてくれるって……」
エリクシアの言っていたことを思い出し、アンはリンゴの銀細工を見つめる。
「そうだ!」
「そういう契約だ!」
「オイラたちは、それをつけてる人間は助けなきゃいけないんだ」
「そうしないと、銀髪の魔女様から殺される」
「契約は絶対だ!」
(それなら……ヴィライト様は……?)
ヴィライトもアンと同じくエリクシアからもらったリンゴの銀細工を首から下げていた。
この妖精たちの話が本当なら、妖精たちはヴィライトも助けなければならないはずだ。
「ヴィライト様は!? ねぇ、あなたたち、これと同じものを持っていた騎士様を助けなかった!?」
「騎士様……?」
妖精たちは顔を見合わせ、首をかしげる。
「いや、オイラたちは見てないぞ」
「オラたちは基本、この城の庭にしかいないけど……」
「その騎士は、どこにいたんだ?」
この妖精たちは、この庭に生えている草花から生まれた妖精だという。
妖精は基本的に、自分が生まれた場所から離れることはしない。
「えーと、多分、東門の方だと思うけど……昨日の明け方よ。昨日の明け方、亡くなったって————」
アンは自分の口から、亡くなったなんて言いたくはなかった。
しかし、死のうとしたアンを助けてくれた妖精たちの話を聞いていると、ヴィライトも妖精たちに助けられているのではないか……という考えが頭を過ぎる。
「東門? ああ、オラたちの縄張りの外だな」
「でも、門の向こう側なら、別の妖精がいただろう?」
「もしその騎士が危険な目にあっていたなら、多分、あいつらが助けているんじゃなか?」
「その死んだ騎士の死体は、確認したのか?」
アンは首を横に振った。
実際に遺体を見たわけではない。
(そうよ、全部聞いた話で、実際に目にしたわけじゃない。ブレイブが持っていたヴィライト様の身分証だって、血がついていただけで、もしかしたら妖精たちの力を借りて、逃げている可能性だって————)
「————でも、あいつらは銀髪の魔女様と契約してるかどうかわからないぞ?」
「え……?」
アンが妖精たちと話していると、パタパタと走ってこちらへ向かう足音が聞こえて来た。
(もう抜け出したことがバレたの!?)
足音が聞こえる方を見ると、そこには荷物を抱え、息を切らしながらこちらに向かって走ってくるマジカの姿。
「王女様……っ!」
「マジカ!? あなた、この荷物、一体どうしたの?」
マジカは荷物をアンに押し付ける。
「きっと、すぐに追っ手が来ます。今のうちに、お逃げください」
「えっ!? どうして……?」
「このままだと、本当に勇者様と結婚させられちゃいますよ!? 王女様が愛しているのは、ヴィライト様でしょう!? それでいいんですか!?」
「マジカ……」
「私は、ずっと、王女様のお側にいたからわかるのです! 王女様に勇者様と結婚して欲しくないのです。あの人、王女様が逃げないように、薬まで使って……————あんな人と一緒になって欲しくないのです!! ですから、行ってください。必要なものは、全部この中に入れておきました。金貨も、少しだけですが……」
「金貨って、まさか、あなたあのヘソクリを?」
マジカはいつかメイドをやめて、生まれ故郷の国へ帰ることを目標に少しずつお金を貯めていた。
いつか、貯まったお金で自分の屋敷を買って、店を開くのを目標に頑張っている。
それがどんなに大事なお金か、アンは知っていた。
「お金なんて、また貯めればいいんです。それより、早くここから逃げて————」
「ダメよ、マジカ」
「……え?」
アンは地面に落ちていたダイヤの指輪を拾い右手の薬指にそれをはめる。
そして、マジカの手を掴んで走り出した。
「あなたが私を逃したと知られたら、何をされるかわからないわ! 一緒に来て!」
「えっ!? えええっ!?」
(ヴィライト様はもう、王都にはいない。でも、もしかしたら……————妖精たちに助けられている可能性も、捨てきれない)
そして、東門へ向かうと、警備の兵士が二人。
東門はあまり使う人がいないため、警備はいつも手薄である。
だからこそ、ヴィライトと落ち合うのはここのはずだった。
「マジカ、雷魔法……!」
「え!? あれをですか!?」
「魔王の手下に捕まった後から、ずっと練習していたでしょう? 私知ってるんだから……!」
「わ、わかりました……!!」
兵士が気付く前に、マジカは空に両手を伸ばし、呪文を唱える。
「ビリリリリ!!」
すると、一瞬で兵士たちの頭上に真っ暗な雲が出来上がり、雷が落ちる。
感電した二人の兵士は、叫び声をあげる暇もなくパタリと倒れてしまった。
「すごいわ! マジカ!」
「へへ、それほどでも」
マジカは褒められて嬉しそうに笑う。
二人は東の門から王城を出て、東の海岸へ。
(とりあえず、エリクシアが言っていた通りドーグ島に……!!)
海岸にいたドワーフに声をかけると、彼はアンの胸元に光るリンゴの銀細工を見て、すぐに力を貸してくれた。
「あんたも銀髪の魔女様の仲間だね。乗りな……」
「あんたも……?」
「昨日の朝だったかな? それと同じ銀細工をつけた人間がここへ来たのさ」
「————それって、ヴィライト様!?」
「名前までは知らないさ。とにかく出航の時間だ。さっさと乗りな。乗らないなら、すぐに降りな。この船の船長は時間にうるさいんだ」
「え、ええ」
こうして、アンはマジカと共にドーグ島に向かう船に乗り込んだ。
アンがいないことに気づいたブレイブの追っ手が海岸へたどりつた頃には、もうすでに船は霧の向こうに消えていた。
アンは、霧の向こう側に少しずつ見えてきたドーグ島をまっすぐに見つめる。
(あのドワーフの話が本当なら、やっぱりヴィライト様は生きているかもしれない……)
そんな希望を胸に抱いて——————
【第一章 了】
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今作が初めての王道ファンタジーの連載でして……上手く書けているか不安もありますが、それ以上に楽しく書いております。
この作品が少しでも「面白いなぁ」とか、「続きが気になるなぁ」という方は、よろしければ作品フォローと星評価、応援のハートをポチッとなどなどしていただけると、嬉しいです。
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