夏祭りで狐のお面にリンゴあめを欲しいかと聞かれた

にこん

夏祭り楽しい?

これは俺が子供の頃に経験した本当の話だ。


俺が小学一年くらいの頃だったかな。


夏祭りに行ったんだよひとりで。


近所のそこそこ大きな神社の夏祭り。


けっこう前の話だからさ危機管理とか杜撰だったんだよ。


だから近所の祭り行くわって行ったら行かせて貰えた。


夏祭り。

いろいろあって楽しかった。


俺はりんご飴が好きでとりあえず屋台でりんご飴買って舐めながら歩いてた。


これ聞いた話なんだけど。

あぁいう屋台ってヤのつく人がやってるらしいぜ。

資金洗浄っていうのかな?

それのためにやってて、知らず知らずのうちに犯罪に加担してるかもなんだぜ、怖いよな。


って話は置いといて俺はりんご飴舐めながら歩いてたんだけど疲れたから、大通りから外れた少し寂れた場所のベンチに座って休んでた。


ぺろぺろりんご飴舐めながらさ。

それでさ。


カランコロンって下駄の音が鳴ってさ。

顔を上げると俺の目の前に同い年くらいの子が立ってた。


顔には狐のお面つけてんの。


女か男かは分からなかったけど浴衣の色的に女の子だったと思う。

その子さ持ってたんだよね。りんご飴。


ビニール袋に5個くらい入ってた。


「あめすきー?あめーいるー?おとーのやたいであまったのー」


聞かれた。


でも俺は要らないって答えた。

今持ってるしあめ。


「そっか。ざーんねん」


女の子は歩いていった。


ちなみにだが俺がここで断ったのは飴を持ってるから、だけじゃなかった。


俺はいわゆる【ピエロ恐怖症】なんだよな。


道化師?あんなおもしろおかしい格好をした奴が苦手でさ。


なんとも言えぬ怖さを感じてた。

んで、狐のお面からも似たような怖さを感じた。


だって、考えてみてくれないか?


【あの仮面の下がどんな顔をしてるのか、全然見えないんだぜ?】


笑ってるのか怒ってるのか悲しんでるのか、表情は何も見えない。


そもそも人間なのかどうかすら分からない。

怖いよ仮面ってのは。


子供ながらそんなことを思った俺はベンチから立ち上がった。

とにかく、怖かったんだ。


時期は夏の終わり。まだまだ暑いはずなのに変に寒かったのを覚えてる。


だから人混みに帰ろうとしたんだけど、2人組の男の子が入れ替わるようにベンチにやってきた。


その子たちにも狐面は聞いてた。


「あめーいるー?」

「「いる!」」

「はい」


2人はあめを受け取って舐めてた。


女の子はあめを渡すとなにもせず離れていった。


俺が見たのはそこまでだった。


俺は人混みに溶け込もうとした。

そのときだった。


『ちっ』


舌打ちが聞こえたような気がした。

妙に耳に残る舌打ちだったのを覚えてる。直感的に理解した。俺に向けられたものだって。


俺は


「うわぁぁぁぁ!!!!」


薄気味悪さを感じて家まで走って帰ってった。


んで、その日の夜だった。


ブルブル震えて布団の中にいたらさ。


母さんが俺の部屋に入ってきてこう聞いた。


「なんか近所の子供が何人か行方不明になったみたいなんよ。なんか知らん?」


母さんは顔写真を何枚か見せてきた。


その中に俺が数時間前に見た2人組の写真があった。


「もう日付も変わったのになにしとるんやろね」


その日俺は震えて布団を頭まで被って寝た。


それから数日が経ったけど結局行方不明のやつらは見つからなくて【神隠し】って言われた。


ほんとになんの痕跡もなく消えたが、警察はあの日屋台を経営してたヤのつく人を捕まえてた。


証拠は何もなかったけど、その人は生贄にされてた。


【とりあえず犯人は捕まえた】


そういうことにしたかったんだろうな。

子供ながらに俺は理解した。


実際それでさ、町はじゃっかん静けさを取り戻してた。


で、その人が捕まってしばらくして風の噂で聞いたんだけど。

ヤの人は他の殺しに関わったことは白状したけど一貫して子供のことは知らねぇって言ってたらしい。


俺は子供ながら本当のことを言ってるような気がした。


で、成長した俺はそんな事件のことなんて忘れてたんだけど。


急に思い出すような事件があったんだ。


あの日から10年経った今年。


近所のリンゴの木の下からひとりの子供の死体が見つかったのだ。


俺も野次馬気分で見に行って凍りついた。



2


DNA鑑定でも答えは出てた。


ちなみにリンゴの木があった場所は俺が狐面に会った場所の近くだった。


ちょっと調べて見たらリンゴの木からリンゴを収穫できるようになるまでの年数って10年くらいらしい。


俺は凍りついたね。


んで今になって思い出してた。


『あめーいるー?』


っていうあの声を。


実際のところあの狐面と事件の関連性は分からないけど。


俺はあの狐面は人間じゃなかったと思ってる。


そして自分が【ピエロ恐怖症】なことを今でも心底感謝してる。


あのとき、あめを受け取ってたら、きっと俺もリンゴの木の下で永遠に眠ることになってたんだろうから。




他の子の死体は見つかってないけど俺が言えることはひとつ。


きっと、他の奴らの死体もリンゴの木の下から見つかるだろうってことだ。


ちなみにあの日以来俺は夏祭りに行けなくなった。

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