レベル上げ過ぎ令嬢、原作ボスを全部一人で片付けてしまう

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 その乙女ゲーム「カオティック・ワールド」には一人の転生者がいた。


 悪役令嬢に転生したその女は、前世で散々「カオティック・ワールド」をプレイしていた。


 その累計時間は120時間。


 平均プレイ時間が60時間とされていたから、普通の人の二倍は、やっていた。


 しかし、そんな長時間プレイは苦にはならなかった。


 なぜなら、やり込み要素がふんだんに含まれていたから。


 トロフィーや称号を一つ一つ得ていこうとしたら、気が付いた時には百時間以上経過していたのだ。


 だから彼女は分かっていた。


 その世界に転生した彼女は。


 やがて挑む予定の原作ボスの強さ、弱点、スキル。攻撃タイミングを。


 そして、効率の良いレベリング方法を。





 強さを求める転生悪役令嬢。


 彼女が己を鍛え始めたのは、転生してから三年後。


 つまり三歳の時から。


 その頃からすでに、攻略対象やヒロインとの出会いや、エピソードが始まっていたが、彼女は見向きもしない。


 ストイックに、己を鍛え続けた。


 話はそれるが。


 悪役令嬢は全てのルートでまったく異なる嫌がらせをしていた。


 音楽にすぐれた攻略対象のルートでは、音楽の才能で。


 運動にすぐれた攻略対象のルートでは、運土の才能で。


 芸能にすぐれた攻略対象のルートでは、芸能の才能で。


 だから、彼女はまんべんなく様々な才能を持った天才だった。


 そのため、鍛えれば鍛えるほど、超人になっていった。


 ただでさえ多才な身。


 加えて、どんなルートでも絶対にヒロインを虐めるという意思の強さ。


 ダメ押しに前世の知識。


 これで超人にならない方がおかしかった。


 やがては国の武闘大会で優勝するまでに成長した。


 そんな彼女を見たヒロインと攻略対象達は不思議がった。


 世界は平和なのに、脅威と呼べる存在は数百年前に全て封印されているのに、なんでそんなに鍛え続けていくのかと。





 それからも未来を知っているから、という理由が言えない悪役令嬢は、一人でストイックにレベリングし続けた。


 登場人物たちも恋愛エピソードが発生しても、まったく見向きもせずに。


 彼女は、一人でモンスターを倒して経験値を得たり、様々な人物を師にして特訓したりしていった。


 その効果はしっかりとでた。


 最初はレベル1だったのが、数年後には、彼女はレベル100になっていた。






「カオティック・ワールド1のボス」


 とうとうその時がきた。


 封印されたボスの一体が目覚めたのだ。


 それは一番最初のボス。


 悪役令嬢は、カオティック・ワールド1のボスだ。


 1のボスは、圧倒的なHPが特徴的なボスだ。


 とにかく高威力の技を連発して、相手のターンが来る前に倒すのが攻略法だ。


 だから悪役令嬢は、取得したスキルを連発した。


「食らいなさいな! 炎神龍究極魔術奥義メテオ!」


 降り注ぐ隕石の中、1のラスボスは自分のターンが来る前に倒されていった。


 その時間、およそ3分。







「カオティック・ワールド2のボス」


 一方的な蹂躙を見せたその一年後。


 再びラスボスがあらわれた。


 次に封印がとけたのは、カオティック・ワールド2のボスだ。


 2のボスは、攻撃力の高さが特徴的なボスだ。


 防御力をとにかく上げて、守りに徹するのが攻略法だ。


「グワハハハ! 食らうがいい。闇の滅殺奥義グランドインパクトを!」


 大地を操るラスボスは土の壁で悪役令嬢を押しつぶそうとする。


 しかし悪役令嬢はレベル120の防御力でそれを防いだ。


「耐えしのいでしまえばこちらのもの! 食らうがいいですわ、聖なる光神の究極真奥義! ライト・ジャッジメント!」


 他の登場人物達が、最終決戦であるラストダンジョンにたどり着く前に、全てが終わっていた。






「カオティック・ワールド3のボス」


 そして、その激闘からさらに1年後。


 悪役令嬢は、カオティック・ワールド3のボスに挑んでいた。


 3のボスは、二体で一つ。同時攻撃で倒さなければならないボスだ。


 さすがに一人しかいない悪役令嬢には分の悪い戦いに思えたが。


「「余等の攻撃を裁けるか! 矮小なる人の子よ!」」


「ふっ甘いですわ! それは残像ーー」


 素早さステータスを限界まで上げたレベル150の悪役令嬢は、残像を残しながら高速移動。


 ラスボス×2の攻撃をするりと回避。


 そして、ほぼ同時にラスボス二体に攻撃を放った。


「食らうがいいですわ! 無現世界最終秘奥義アルティメット・ゴッド・ライトニング!」







 遠くには、残像を残しながらラスボス二体を倒した少女を、唖然とした顔で見ている者達がいた。


 それは「1」と「2」と「3」の攻略対象とヒロインだった。


 完全装備の彼等はここで全員集合して、総力を賭した命がけの戦いに挑む予定だったが。


 気づいた時には戦いが始まっていて、そして終わっていた。


 彼等の心は一つだった。


「もう世界の危機なんて、彼女(あいつ)だけいればいいんじゃないでしょうか(いいんじゃねーか)?」


 その後も「5」、「6」とシナリオが続いていったが、全て悪役令嬢が一人で倒してしまっていた。


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