第69話 潜水

「うっひゃぁ、めっちゃ冷たいで!」


「はやてちゃーん、準備運動してからー」


まほろ達は、そうめんを食べた後に海までやって来ていた。


はやてが海の水を触りに行ったが、まほろに呼び戻される。

はやては顔の前で「ごめんごめん」とジェスチャーしながら、まほろとあずきの所まで戻って来た。


そして、3人並んで準備体操を始める。


3人の格好は、これから海に入るので水着であるが、まほろの前世の様にファッション性の高いビキニなどの水着は存在せず、スポーティな競泳風というか、ウエットスーツやボディスーツの様な物であった。


まほろはガイに可愛い水着を頼もうと思っていたのだが、時間がなかったので今回はく女性忍者くのいち御用達の水中着衣を購入して来たのであった。


「よっしゃ! でっかい魚取ったんで!」


「ちっちっち。はやてちゃん、海老だよ、デカい海老」


「2人とも、初めは潜るのも大変よ?」


「まずは海になれる事だな」


はやての手にはモリ、まほろは素手である。


張り切ってある所に、あずきとあずきのおじいちゃんが注意事項を言っていく。


しかし、はやてとまほろの気合いの入った耳には届かず、飛び込んだ。


バシャバシャと波を立てて2人は海を泳いでいくが、一向に潜る気配は無い。


「ぶはぁ! なんやこれ、下に潜られへん!」


はやてが海面から顔を上げて叫んだ。


まほろは、必死に足をバタバタと動かしているが、潜って行く様子はない。


しかも、その様子は、頭だけ頑張って潜ろうとしているので、近くのはやてから見たら、とても面白い事になっている。


「あはははは! まほろちゃん、おもろいでそれ!」


はやてが腹を抱えて笑う横で、息が尽きたまほろは海面から顔を出した。


「ぶは! 海老も魚も見えてるのに、なんで…はぁ、はぁ」


まほろは、酸素を求めて荒く息をしながら、悔しそうに呟いた。

そして、隣で腹を抱えるはやてに気づいた。


「え? どうしたの?」


「まほろちゃん、めっちゃおもろかったで。なんか、半分溺れてるみたいでな」


「な、な、な〜!」


はやての指摘に、まほろは顔を赤くした。


「大丈夫よ。はやてちゃんも似たようなものだから」


「あ、そうなんだ」


「なんで安心してんねん! このままじゃ取れへんやんか!」


あずきも泳いで2人に合流すると、自分の事を棚に上げていたはやての事をまほろに伝えた。


まほろは、自分だけでない事に安心したそぶりを見せて、はやては、キレのいいツッコミを決めた。


「私が教えてあげるからまずは練習しましょう。今度は私が教える方なんて、なんだか嬉しいわ。見ててね」


あずきは笑顔でそう話すと、大きく息を吸って、綺麗なフォームで海底まで潜っていった。


「「おおー!」」


海底までどんどんと潜っていくあずきの姿を見て、まほろはこの世界に存在しない物語の登場人物、人魚のようだと思った。


あずきは海面に戻ってくると、手に持って来たまほろの前世では伊勢海老と呼ばれていた大きな海老を2人に見せた。


「「すごい!」」


「じゃあ、2人も潜れるように練習しましょう」


「「はい、先生!」」


まほろとはやては、あずきの指導を受けて、なんとか潜れるようになった。


流石にあずきより潜る姿は不恰好だが、3人で手分けして、バーベキューの為の漁をするのであった。


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