第70話 帰路
「こりゃ、わしが居らんくても大漁だったな」
まほろ達が獲ってきた魚介類を見てあずきの祖父はそう言って笑った。
とは言え、なれているのかまほろ達が獲っていない大きな魚を一匹だけ肩に担いでいる。
「マグロだ〜!」
「お、まほろちゃんは分かるか」
その魚を見て、目を輝かせるまほろに、あずきの祖父はいい笑顔で応えた。
肩に背負っているのはクロマグロだ。
まほろ達が潜れるようになってからは、しばらく姿を消していたのだが、なんと沖に出て回遊業を狙っていたとは思わなかった。
ちなみに、この世界の海の魚の分布は地球と違うだろうし、漁業権も無いので、必要な時に必要な人が取っている。
勿論、漁師を生業にしている人も居るが、だからと言って海の恵みに決まり事はなかった。
「しかし大漁だな。おばあさんもびっくりするだろうさ」
まほろ達も、網でできた袋いっぱいに魚介類を入れて、サンタクロースのように背中に担いでいる。
「痛! また海老に背中突かれてしもた」
「早く帰って下ろしましょう。はやてちゃんの背中が傷だらけになっちゃうわ」
先程からはやての海老が特にいきがいいのか、何度か悲鳴をあげるはやてに、あずきが笑顔で言った。
「そうしよ。背中の傷は恥やっていうやん?」
「確かにそう言う奴はいるけどな、背中の傷が勲章のやつも居るんだぞ」
帰り道、はやての言葉にあずきの祖父がそう応えた。
「でも、私のおった里ではそう教わりましたよ? 臆病者の傷やって」
「そうだな。逃げた者の傷は背中につくからそう言われる事が多いけどな、例えば、はやてちゃんの目の前で友達や仲間が倒れてたら、どうする?」
「そんなん、守るにきまってるやん。あ!」
何かに気づいたように、はやては声をあげて、あずきの祖父は頷いた。
「人を守るように覆い被さった時の傷は背中につくもんね。でも、海老につけられた傷は恥ずかしいよ、はやてちゃん」
まほろが、はやてが行き着いた答えを先に話して戯けるように今の状況を口にした。
「そらそうや! また引っ掻かれる前にはよ帰ろう!」
早足で家に帰ったまほろ達をあずきの祖母は外で待っていた。
「大漁ですねぇ。生簀の用意もしてありますからそっちに入れましょうねぇ。それにしても、おじいさんは張り切りましたね」
「過去一の大物かもしれん。ええとこ見せたくてな」
「そうですねぇ。それなら、私も気合い入れないといけませんね」
ガハハと笑うあずきの祖父の言葉にあずきの祖母は微笑みながら、一振りの刀を取り出した。
「ばあさん、早まるな! このままだと切った魚が地面に落ちるだろ? まずは皿とまな板の用意を!」
「そうですね。横着せずにちゃんと準備しましょうか」
あずきの祖父の言葉にそう言って、あずきの祖母は抜きかけた刀をチンと音を立てて鞘に戻した。
あずきの祖母が用意をする為家に戻るのを見て安堵の溜息を吐くのであった。
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