中等科一年編 Ⅱ《夏》

第67話 海

まほろ、はやて、あずきの3人は、空を飛んである場所に向かっていた。


まだ少し時期は早いのだが、海の方へ行こうと言う話になったのである。


この話が出たのは、少し前まで遡る。


まほろ達は、放課後にいつものようにまほろの部屋で、魔法の勉強をしていた。


その休憩時間に、大型連休の話になったのであった。


この世界では、春の頃にまほろの前世でいうゴールデンウイークのような大型連休はない。

学生大会に向けて、1番頑張らないといけない時期だからである。


その代わりに、学生大会が終わってしばらくした後に、1週間ほどの大型連休が待っているのだ。


夏本番前の、夏の日差しが強くなる前の、この連休を、どうするかという話題になったのだ。


学生大会も終わった事だし、この連休を利用して、出身の里に里帰りする生徒も多いのだが、まほろ達3人は、その予定も無かった。


はやては里帰りする家がないし、まほろも里では煙たがられていたと自認しているので、わざわざ帰ろうとは思っていなかった。


この前の学生大会の時に、父とは色々と話したり食事に行ったりしたので、前世で社会人として、一人暮らしをしていたまほろは、ホームシックのようなものは感じていなかった。


唯一、あずきはどうするか迷っていたようだが、二人の話を聞いて、里帰りとは違うお出かけ先を提案した。


それは、あずきの祖父母のいる里であった。


少し時期的には早いのだが、あずきの祖父母の住む里は海にあり、初等学校時代には、両親に連れられてよく行っていたのだそうで、まほろとはやてに一緒に行かないかと提案したのであった。


海に入るのはまだ冷たいだろうが、まほろの場合は花より団子。

あずきの話に出てきたバーベキューの話に食いついて、二つ返事で行く事を了承した。


はやても、海を見た事がないらしく、行ってみたいという事で、3人は連休を利用してあずきの祖父母の家にお邪魔する事になったのである。


通常なら、バスの移動など色々と段取りがあるのだが、まほろ達の場合は空をひとっ飛びである。


「潮の香りがしてきたね。そろそろ海が見えてくるかも!」


「へえ、これが海の匂いなんか。聞いてたけど、確かになんか空気が変わるわ」


空を飛びながら、海が初めてのはやては勿論のこと、なんだかんだ言ってまほろも興奮気味である。


二人の様子を、あずきが微笑ましく見守る中、ちょうど山を越えた辺りで、海が見えた。


「「「わあ」」」


楽しそうに話していた3人は、言葉を失った。


バスなどの地面から見る景色でなく、空から見る海は、星の偉大さを感じるように、どこまでも水平線が続いていた。


「これが海か。めっちゃ凄いな」


「私もこんなの見たのは初めてよ。空からじゃないと見られない景色だと思うわ」


「なんか、凄いね」


3人は、語彙力少なく、しばらく移動をせずに海を見ていた。


「おばあちゃんの家までもうすぐだから、向かおうか」


「せやな。何時迄も見てられそうやけど、あずきちゃんのおばあちゃんもあずきちゃんの事待ってるやろしな」


「バーベキューも、待ってるもんね!」


「もう、まほろちゃんったら」


「食い意地はってるで!」


3人は笑いながら、あずきの祖父母の家までもうひとっ飛びするのであった。

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