第65話 チャンス

まほろが飛行を教えるのに条件を出して、学校が終わった後に第二模擬戦場にて試験を行う。


本日限り、まほろに戦闘で勝ったのみ飛行を教わる権利を得る事ができる。


ただし、この機会を逃したまたは条件を満たす事ができなかった場合にはきっぱり諦める事。


それが守られなかった場合には学校側が退学処分を検討する。と言う条件であった。


この条件は、水無月先生を通じて校長に相談して、認可された学校が提示したものでもある。


いつまでも、一個人を追い回すという行為を学校側が咎めずに放置しているのも良くないといった対応でもあった。



放課後、集まった生徒はまほろを追いかけ回していた生徒の数よりもずっと多かった。


正式にチャンスがあるのならチャレンジしたいと言う事なのだろう。


「では、私がに審判を執り行います。グループと明記していましたが、あれは授業中のグループ訳ではなく、時間の都合上まとめて試合を執り行うと言うことです。初めに言っておきますが、今回東雲さんは加減をしませんから、身代わり人形があっても怪我の危険性があります。その事を了承した者のみ、12人ずつ試合を行います」


水無月先生の言葉に、集まった生徒達はどよめいた。

グループ3人でまほろを相手にするのでさえ有利だと思っていたのに、12人とは馬鹿にしている人数である。

1人でも勝てばそのグループ全員が飛行忍術を教えてもらえるのだ。


この条件だけ聞けば逆に教えたいのではないかと思える。今まで逃げていた事が疑問に思える程であった。


「まあ飛行忍術が覚えられるならなんでもいい!」


初めに意気揚々と名乗りを上げたのは、三年生の学生大会優勝グループであった。


この3人は、まほろを追いかける事などしていなかったが、今回の条件で参加を決めた生徒の代表、学園一の実力の三年生で1番強い生徒である。


その後も、そのグループと学生大会決勝を戦ったグループ、2年の優勝グループ、その相手グループという、中等学校ドリームグループのような顔ぶれが出揃って、初めの試合を執り行う事になった。


「悪いが俺たちは飛行忍術を覚えたいから一年だからと言って手加減はしない。悪く思うなよ」


代表したのか、三年生優勝グループの大将だった生徒がまほろに向けて言った。


「大丈夫です。あとで文句を言われても困るんで本気で来てください」


「な!」


まほろは先輩の言葉に挑発で返した。


教えを乞う側が不遜な態度でどうするのかと思うが、優勝者としての驕りとプライドがあるのであろう。


しかし、まほろにとって、科学的知識や理論を伴わない忍術は、魔法の基礎を下回る。



「では、試合開始!」


水無月先生の合図の後、まほろはすぐに魔法を使う。


先輩達もそれぞれ動こうとしているようだが、まほろの魔法の方が圧倒的に速い。


Fireファイア Gatlingガトリング


Fireファイア Bulletバレットと同じ炎の弾丸が無限に生まれ、目にも止まらぬ速さで先輩達に発射される。


ダダダダダダダダダダダダと無機質な炎の弾丸が発射音が模擬戦場に響き、一瞬の内に先輩達の身代わり人形を木っ端微塵に吹き飛ばした。


それを見てまほろは魔法を止めた。


Fireファイア Gatlingガトリングによって起こった土煙が晴れた時、リングや後ろの壁が炎の弾丸によって蜂の巣の様に崩れ、先輩達は例外なく気絶していた。


「終わったよね、次」


水無月先生の合図の前に、まほろの作業の様な声が今の状況を見てしんとなった模擬戦場に響いた。


「そ、そうですね。今回の挑戦者は全員不合格! 次に挑戦したいものは前へ!」


水無月先生は苦笑いという表現では足りないくらいに口角をひくつかせながら試合結果を宣言して次の挑戦者を募った。


しかし、先程の試合を見て、我こそはと名乗りをあげる様な生徒はいなかった。


まほろが提案した飛行を教えてもらうチャンスは、一試合だけで幕を閉じる事となるのであった。

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