第64話 マナー違反

「ほんと、困っちゃうよね」


昼休み、まほろは学校の屋根の上で寝転びながら言葉を漏らした。


学生大会が終わって、通常運転な学生生活が戻って来るかと思いきや、まほろは今まで白い目で見ていた生徒達に掌を返されたように言いよられていた。


話の内容は飛行忍術つまりは空飛ぶ魔法を教えろと言ったものである。


同級生から上級生まで、断っているにも関わらずしつこく来る生徒から逃げて、まほろは校舎の屋根にやって来ている。


「逃げてばっかりいないで、諦めさせるようにぶっ飛ばしてやればいい」


使い魔サーヴァントのファミが、器用に前足でボクシングでもするようにパンチをしながら言った。


「んー、それが楽なのかもだけどねえ」


「そうでもしないと一生付き纏って来る。あの手の人間はわからな____にゃ」


ファミはシャドウボクシングで三角帽子がずれて落ちそうになったので、これまた器用に前足で三角帽子を支えた。


「次の授業の時に水無月先生に聞いてみようかな」


「それがいい」


この屋上に避難してるのも、一応担任の水無月先生に許可を得ている。


普通の生徒達に階段などの普通の登る手段がない屋根の上への避難と、それにともなって少しだけ授業へ遅れていく権利だ。


一部の悪質な生徒以外は教師陣、生徒共にまほろに飛行魔法を聞くような事はしない。

Aクラスの生徒達は、まほろの飛行魔法に驚き、賞賛する話題を出そうとも、教えろなどと言ったような話はしなかった。


それは、一族秘伝の忍術などを聞くのはマナー違反であり、学生として習うのは本などで習得の仕方が開放されているものである。


それ以上の魔法は、里の忍者や団体の忍者になった後に秘伝を教わるのが普通である。


家の秘伝を学生大会などで使う生徒もいるが、それを教えろと言うのはマナー違反で、教えてくれないからと言って追いかけ回すのは悪質極まりない行為である。


教師から厳重注意を受けて尚、まほろを追いかけ回すのは、不可能と言われる飛行にそれだけの価値を見出しているからだろうが、迷惑なものは迷惑だし、まほろは来るもの拒まず誰でも魔法を教える気はない。


はやてとあずきは、煙たがられ、白い目で見られていたまほろに声をかけてくれた大切な友達だから、一緒に魔女になりたいと思ったから魔法をおしえているのである。


「まほろちゃん、そのまま寝てったらあかんで?」


「ほんと、今日の屋上は気持ちいいものね」


はやてとあずきが、箒に乗って屋上へとやってきた。

食堂のおばちゃんに、おにぎりと簡単な食事を作ってもらって持ってきてくれたのだ。

最近は、食堂も慌ただしくすると迷惑な為、食堂のおばちゃんにも協力してもらっている。


「あ、2人ともありがとう」


学校の屋根に、おにぎりとタッパーに入ったおかずと水筒の味噌汁でピクニックである。


「はい、まほろちゃん箸な」


「ありがとう」


「こっちはお味噌汁ね」


「ありがとう。ほんと、ごめんね。2人は食堂で食べたらちゃんとしたご飯を食べれるのにさ」


まほろは左右の手で箸と味噌汁の入ったコップを受け取りながら2人に謝った。


「気にする事あらへん。悪いのはまほろちゃんとちゃうやん!」


「そうよ。悪いのはマナーの悪い生徒だわ。先生達もなんとかしてくれてるそうだけど、大変見たいね。なんか、裏では教師より優秀な生徒って逆恨みして生徒を煽って迷惑をかけようとしてる先生もいるって噂になってるわ。真偽は分からないけどね」


「ま、こんな話はええやんか、早よ食べやな味噌汁冷めてしまうで!」


「そうね、まほろちゃんが気にする事じゃないもの」


はやてとあずきは、まほろの謝罪を要らないと言って否定した。


「まほろ、私にもウインナー」


「はい、どうぞ」


ファミからの催促に、まほろはタッパーからウインナーをつまんでファミの口元まで持っていくと、ファミは嬉しそうに齧り付いた。


「でも、このままじゃ終わらないからさ、こっちから打って出ようと思うんだよね」


食事をしながら、まほろは先程ファミと話していた事を、2人に共有するのであった。

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