第62話 雑誌

「編集長! これを見てください!」


間紙まがみトオルは部屋に入ると、上司にある雑誌の記事を見せた。


「ああ、見たよ。色々と話題になっているからね。ゴシップ雑誌だから否定的な意見は多いが、ウチとはジャンルが違うから関係ないだろう。それに、小鳥遊あずきとの契約は解除になった。彼女の評判がどうなっても、うちの会社には関係ない」


上司の言いように、間紙は声を荒げる。


「そんな事どうだって良いでしょうよ! 私が言ってるのはこのあずきちゃんの笑顔だ! ゴシップ雑誌の無理矢理小さくしたこのサイズの写真だから潰れちゃってますが、私がこの笑顔のあずきちゃんを取れたのはたった一度だけだ」


「笑顔のあずきちゃんですか……」


「そうですよ! 私達はファッション雑誌、モデルの最高の一枚を読者に届けるのが仕事でしょう! こんなゴシップ雑誌に抜かれて、悔しくないんですか?」


ものすごい勢いで話す間紙に、編集長さまじめな顔で言った。


「君のプライドと情熱は伝わりましたが、小鳥遊あずきとの契約はもう終わっています。それに、否定的な意見のある記事に対抗して、火中の栗を拾いに行くような事をしなくてもいいのです」


「それでも、ダイナはスポンサーなのでしょう?」


スポンサーと言う言葉に編集長は顔を顰めた。


「最後に、写真の掲載許可を取ってください。私が撮った、あずきちゃんの最高の笑顔はここにあります」


間紙が持参した写真は、あずきが最後にスタジオに来た時に撮影したゴシップ雑誌と同じ服装、友達とお揃いと言って持参したハイカラな服装の写真であった。


「間紙、確かにウチはモデルの私物で写真を載せることもするが、この服装では____」


「この服を作ったの、服部はっとりガイらしいですよ」


服部ガイとは、奇抜ながら新しい感性で面白い服を作ると言って一部で人気が出始めているデザイナーである。


「そうなのか?」


「はい。あの服を作る人を選ぶ服部ガイです。それに、スタッフは、ゴシップ雑誌であずきちゃん達に降りかかる悪い噂をこの写真が消し飛ばしたいと思ってます。どうですか?」


スタッフの思いを聞いて、交渉の余地があると思い、編集長が折れた。


「小鳥遊さんに交渉してみましょう。それに、服部ガイに服の使用許可も取らないといけないな」


「ありがとうございます! 編集長!」



礼を言って退出すした間紙が合流したのか、別の部屋での歓喜の声が聞こえる。


「みんなに肩を落とさせない為にも、私は交渉を頑張りましょうか」


編集長も、やるとなったら気合いを入れて、掲載許可の交渉に向かうのであった。


後日、あずきの写真が掲載されたファッション雑誌は無事に発売されて、飛ぶように売れたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る