第59話 かわらばん屋

私の名前は初撮はっとりかげり。


午船ごふねかわらばんの新米記者だ。


新米といってももう入社三年目になり1人で取材にまわっているのだが。


私に回って来る仕事は当たり障りのないものばかりで、今回も春の学生大会の取材であった。


他のかわらばん記者も取材に来るのだが、春の学生大会は大きな契約の話はない為小さな記事になる。


秋の学生大会は大きな大会の為に一面に取り上げられるからやりがいもあるのだろうが、春は学校の代表を決める大会の為、そこまで盛り上がる事もない。


その上、学校毎に大会がある為、スケジュールを組んで各学校を回って勝ち抜いた学生達のインタビューを書かなければならない。


とりあえず、学生大会のメインは三年生なので、三年生の取材さえできればいい。

できればいいのだが、経費節約の為にバス代をケチって宿泊費をケチる為に、中等学校のある里に着くのはどの里も朝方になる。


まあ、そのおかげで観客のいない間にカメラをセットできるので仕事はしやすいのだが、面白みのない一、二年生の試合も見ないといけないので正直苦痛だ。


しかし、今回のこの里は、朝から会場には観客が埋まっており、カメラの設置がし難い。


なんとか席を確保して、試合の開始を待っていると、一年生の紹介が始まった。


紹介されるメンバーを見て、なるほどと納得した。


出場メンバーの中に雑誌モデルなどで活躍する小鳥遊あずきがいたのだ。


アイドル見たさのミーハーが集まっているわけだ。

それでカメラの設置がやり難いなど仕事に影響があるのだから勘弁してほしいが、これだけ人気があるのなら、一年だとしてもインタビュー記事を書けばそれなりに買う人はいるだろう。


ライバル記者は三年の試合から来るの事にしているのか見当たらないので独占取材も可能かもしれない。


色々と考えているうちに、先鋒戦が始まった。


その2人を見て、かげりは鼻で笑ってしまった。


1人は身の丈に合わぬような大刀を持ち、1人ははいからへんてこな衣装だ。


紹介の時に小鳥遊あずきとお揃いにしていたようだから売り出し中のアイドルとかだろうか?


何にしても、やはり一年生の試合、程度は低いだろう。


そんな事を思っていたのも試合が始まるまでであった。


かげりが身の丈に合わないと評価していた大刀を使いこなし、それどころかその大刀に隠されたギミックまでも使いこなして大人顔負けの試合をする少年、服装で目立とうとしていると評価していた少女は大人でも使える人が少ないと言われる特殊魔法を使って見事な試合を繰り広げる。


学生大会のレベルではない。


この学校に取材に来るまでに3つの学校の取材をこなしてきたかげりであったが、どの学校の三年生よりもレベルが高かった。


極め付けは少女の最後ので氷の壁を複数作り出して、立体的な動きで相手を翻弄する動き。


かげりは、適当に何枚か撮ろうと思っていたカメラをいつの間にか三脚から取り外してきちんと自分で構えて何枚も写真を撮っていた。


「ああ、フィルムの交換!」


少女が勝利を決める瞬間をフィルムが切れてしまい取れなかった事に苛立ってしまった。


次の試合も、かげりの想像とは全く違った。


アイドル・モデルといったイメージとは全く違った泥臭い試合であった。


お互いに相手の裏をかくために自分を犠牲にするような戦い。


それに、最後に小鳥遊あずきが使った忍術はとても学生とは思えない大規模忍術だ。


秋の学生大会の三年生でも使える者がいれば確実に優勝候補であろう実力者。


先鋒戦、副将戦どちらも手に汗握る戦いであった。


かげりは、大将戦の為にまだ撮影枚数が残っているフィルムを新品に交換する。


先の二試合で、この後の試合に期待している自分がいる。


一年生の試合から見に来た自分に、経費を削らせた会社に感謝をしたいくらいであった。


そして始まった大将戦、かげりはカメラを構えることさえ忘れて、試合をただただ見つめた。


「空を、飛んでる……」


不可能とされてきた事が、目の前で行われている。


「あ、写真撮らなきゃ!」


かげりは空を飛ぶ少女に、必死にシャッターをきった。


最後の大業は、光が凄くて撮れなかったが、空を飛ぶ姿はきちんとカメラに収めた。


最後は、武器を破壊された対戦相手の降参という締まらないものだったが、この決勝戦は学生の大会だと馬鹿にできないものであった。


「トクダネだ! 一面狙えるぞ!」


この後の二、三年の試合を見て帰るよりも、この3人にインタビューがしたい。


かげりは行動を起こすもの、見事に断られてしまったのだが、この記事を完成させる熱意はきえず、二、三年の試合そっちのけで、試合を見た人の感想や試合に出ていた少女達の同級生達に取材をしてまわるのであった。

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