第57話 父の思い
まほろの父、東雲シラハは、まほろ達の試合が終わった後、1人観客席を抜け出して会場の外に出ていた。
誰もいないベンチに座って「ふぅ」と大きく息を吐いて呼吸を整えながら、指で目頭を揉んだ。
「いかんな。どうも歳をとって涙もろくなっているようだ」
周りには誰もいないのに、シラハは言い訳を口にした。
「お父さん、わたし、魔女になる!」
まほろがそう言ってシラハの部屋を訪れた日を昨日の様に思い出す。
「なんだい? その魔女というのは?」
「魔女はね、箒で空を飛ぶの! それでね、魔法を使うの!」
「箒で空をかい? 魔法?」
まほろが話す魔女というのはよく分からなかったが、真剣に話すまほろの夢を応援したいと思った。
その後、しばらくしてからまほろは服装を変えたいと相談に来て、部屋に篭って色々とやり始めた。
妻のいざなは、まほろのその様子を心配していたが、シラハはまほろが初めて自分からやりたいと言った事を応援したいと言って支援をした。
まほろの異端ともいえる行動に、避けるも者も多かったが、そんな事にへこたれるまほろではなく、魔女になると宣言した通りに、自分の道を邁進していった。
そんなまほろをにも、理解者というか、信者というか、まほろの服のセンスに惚れ込んだ者が現れ、まほろについて里を抜けた事に、まほろにもそういった人が周りにいる事に安心を感じた。
腕の良い忍者だったので里的には少し痛手であったが、まほろの味方ができたのだからあ嬉しい出来事であった。
そして、中等学校に上がり、里から離れて暮らすようになると、まほろに友達ができたようであった。
それを聞いたのがまほろの口からではなく、まほろの友達の父親である小鳥遊ダイナの口からであったのが少し悲しかったが、まほろに友達ができた事はとても嬉しかった。
そして今日、学生大会の決勝で、まほろは、箒に乗って空を飛んだ。
忍者界の中で、絶対に不可能とされていた事だ。
「私、魔女になる!」「魔女はね、箒で空を飛ぶの!」
いざなは、その言葉をバカにしたように無理だといった。
そんな夢物語を言わずに、今までのように忍術の修行に勤しみなさいと叱った。
シラハも、心のどこかで無理だろうと思っていた。
それでも、まほろばめげなかった。
「いざな、まほろは、私達の娘は凄いぞ。自分の目標の為に、不可能を可能にしたんだ。あれが、まほろが言っていた魔女なんだな」
「そうですね。あなたの娘は凄い。あの姿を見れば、うちの娘がまほろちゃんみたいな魔女になりたいと憧れるのがよく分かる」
「空気の読めない奴め、俺はしみったれた姿を見られたくないから席を外したんだ」
探しに来たダイナに声をかけられて、シラハは鼻を啜りながら言った。
「そう言うな。長く戻らなかったらまほろちゃんが探しにくるぞ? ほら、飲み物でも飲んで落ち着け」
ダイナは、持ってきた飲み物をシラハに渡した。
シラハは、その飲み物を受け取って、その温かい飲み物を一口飲んだ。
「あんっまい! なんでこんな時にお前はおしるこなんだ!」
「ははは! 美味いだろ?」
「まあ、悪くわないな」
ダイナの飲み物のチョイスに、シラハのしんみりした感情も引っ込んでしまった。
これで、娘の前で涙を流してしまう事は無さそうだ。
シラハは、ダイナに貰ったおしるこを一気に飲み干すと、そろって観客席へ戻るのであった。
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