第56話 学生大会3日目《まほろの決勝》

リングに上がったしぐれは、やる気十分と言った様子でまほろに話しかけた。


「2試合とも見事でしたわ。アマチュアと馬鹿にできない。今日、きちんと観戦しに来た観客は知人に話すでしょう。私たちも、負けてられませんわ!」


しぐれの話を聞きながらまほろはしぐれの持つ武器に注目した。


その武器は忍者らしからぬ武器、ハンマー。


それも、大型のトンカチや金槌といったものではなく、まほろの前世で陸上選手が振り回して投げる距離を競っていたハンマー投げに使われていたものである。


ボーリングの玉よりも大きな鉄球に、太めの鋼糸がくっついており、持ち手は大きなスコップの様になっている。


準決勝で蛇腹の刀を使いこなしていたが、こちらの方が単純に破壊力はありそうである。


「気になりますの? これが私の最強の武器、華奢な女の子が巨大な武器を操る。これぞロマン、萌えですわ!」


キメ顔で胸を張って話すしぐれに、リングの外からおびなが「しぐれちゃん、それ前の試合でも聞いたよー!」と叫んでいる。


しぐれは、その言葉に顔を赤めながら、鉄球を握っている手を持ち上げ、人差し指でまほろを指差した。


「全力全開!本気で行きますわ!」


その言葉を聞いてまほろはニコリと笑った。


「そうだね。私も、本当の魔女の戦い方を友達に見せないとね。目標になるだろうから。 だから、早く終わったら、ダメだよ?」


まほろの発言に、しぐれは顔が緩むのを必死に堪えるように笑った。


「|最高ですわ!試合前の挑発のやり合い、高まるボルテージ、滾りますわ!《ふん、そちらも拍子抜けするような戦い方はやめてくださいね、では、参りますわ!》」


「しぐれちゃーん、多分心の声と口から出てる声が逆だよ!」


「え⁉︎」


格好がつかないままに、審判の教員の指示により試合が開始された。


開始の言葉を聞けば、どんな場合でもスイッチが切り替わるのがしぐれである。


Fireファイア Bulletバレット


「行きますわ!」


開始と同時に、まほろがFireファイア Bulletバレットを撃ったが、しぐれは鉄球で弾くように、炎の弾丸を防いだ。


動体視力も並外れているし、あの鉄球は、まほろの箒のようにチャクラを流して強化をしているようである。

そうでなければFireファイア Bulletバレットによって穴が空くか砕けていただろう。


「今度はこちらの番ですわ!」


しぐれは、炎の弾丸を弾いた後、鉄球から手を離して鋼糸を持つと片手でぐるぐると振り回した後にまほろの方に鉄球を投げた。


遠心力によって加速した鉄球のスピードと破壊力は物凄いのだろうが、まほろも動体視力はずば抜けており、鉄球を交わすのは造作もない事である。


当たらなければ、などと言ってみたいな。などとまほろが考えた時、鉄球に変化が起こった。


鉄球の後ろ側、鋼糸が付いている周りは穴が空いており、そこから勢いよく風が出て鉄球の方向を変えたのだ。


ジェットスラスター付きの鉄球ハンマー。それがしぐれの変幻自在の武器であった。


まほろは直前で気づいて転がるようにして避けるが、鉄球はジェットスラスターを使ってまほろの逃げる方へ追いかける。


まほろは立ち上がると、走りながら箒に腰掛け、魔法陣を起動させる。


走るよりも、箒で飛んだ方が速い。


「驚きましたわ! それがあなたのとびきりですのね!」


鉄球はジェットスラスターで加速してまほろを追いかけ、まほろは空を縦横無尽に飛び回って逃げる。


まほろの前世の人間ならSFロボットアニメの戦闘シーンを思い浮かべそうな戦闘風景を見せながら、ついに、鉄球が止まった。


鋼糸はリングを網羅できる十分な長さはあったのだが、空に逃げる事は想定しておらず、ついに長さに限界が来てしまった。


箒に跨り空に浮かび、しぐれを見下ろすまほろの姿に、観客達は驚きで静まり返った。


所々から「嘘だ」「飛んでる?」「まさか」などと聞こえてくる。


空を飛ぶのは、忍術の中で不可能とされている事の一つだからだ。


観客席で観戦しているあずきの父、ダイナが呆れたように笑いながらまほろの父シラハに話しかけた。


「まったく、あなたの娘、魔女とはとんでもないですな。あずきも、ああなるのでしょうか」


「もう空くらい飛べるかもしれませんよ?」


シラハは笑いながら返事を返した。


「本当にあずきちゃんも食べるのかしら?だったら、すごい事だわ!」


あずきの母も興奮気味にまほろの飛ぶ姿を見ながらダイナの服をぐいぐいと引っ張った。


「ここなら、攻撃も届かないね」


まほろは、観客など無視してしぐれに話しかける。


「せっかくだから、この世界にない概念で試合を終わらせてあげる」


まほろは、いつものように指でピストルの形を作ると、いつもの倍以上の魔素を指先に集める。


魔素を見る事ができるようになっているはやてとあずきの目には、まるで光がまほろに集まっていくように見えた。


Photonフォトン Laserレーザー


まほろが言葉を紡ぐと、その膨大な魔素を消費して一筋の光線が鉄球を消し飛ばし、その直線上に居たしぐれ、には当たる事なく模擬戦リングに大穴を空けた。


まほろは魔法を打つ前に更にさらに舞い上がり、Photonフォトン Laserレーザーを撃つ位置を調整した。


Fireファイア Bulletバレットの余剰ダメージで猪狩トギが吹っ飛んだ為、Photonフォトン Laserレーザーの威力だとしぐれにどういった被害が出るか想像できなかった為だ。


その事を分かってか、鉄球ハンマーという武器を無くしたからかは分からないが、しぐれは、両手を上げて降参を宣言した。


この後、二、三年生の準決勝、決勝も行われるわけだが、この決勝を見た後だと霞んで見えた。


まほろ達のグループは、結果的に全勝で春の学生大会優勝を決めたのであった。




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