第55話 学生大会3日目《あずきの決勝》
学生大会決勝、副将戦
あずきは試合の開始と同時に魔法を唱えた
『
牽制のための魔法である。
準決勝の時のように大魔法で決めに行っても良かったのだが、事前情報としてこのグループは体術主体で戦う事がわかっている。
あずきはまほろのように魔法の発動スピードが、一瞬ではない。
大魔法であるほどに発動までにラグがある為、準決勝のように初見であればかなり有利であるが、それを見ている今回の対戦相手はそれを見越して距離を詰めてくるだろう。
「
予想通り、対戦相手のおびなは試合開始の合図と共にあずきとの距離を詰めて来た。
牽制の
「舐めてもらっては困りますね!」
あずきはおびなの前に炎の壁を作り出す事で、足を止めて攻撃を狙いやすくする作戦であった。
人間、急に壁ができれば減速するであろうし、最短距離で曲がる時には必然的にブレーキがかかる。
そこを叩く作戦であったのだが、おびなは不敵に笑うとそのスピードのまま、手に持った武器であるトンファーを顔を守る構えて炎の壁に飛び込んだのだ。
「賭けは私の勝ちのようね!」
炎の壁の威力はそこまで高くはない。
おびなにとっては威力が分からないので、突っ込まないのが得策である。
威力が高く、触れた瞬間に命を奪うほどの火力であれば、自殺行為であろう。
戦場なら、そこで死んでもおかしくない。
しかし、これは学生大会で、身代わり人形が肩代わりしてくれる。
大ダメージを受けることはなく、負けが決まるだけだ。
しぐれと幼なじみのおびなは、しぐれの父親がこういった試合の団体のリーダーの為、時雨と共に試合の戦い方を教わってきた。
なので、強敵との戦いでの賭けについても試合を意識した行動が取れる。
炎の壁を突き破ってあずきの前に現れた時、観客は驚きに声を上げた。
不意をつかれたあずきは、おびなのトンファーによる連続攻撃をなんとか手に魔素を集めてなんとかガードする。
あずきにとって、この状況はだいぶ悪い。
はやてと違ってどちらかというとあずきは中遠距離タイプで、懐に入られるのに弱い。
「武装忍術を使えるのがあんた達だけだと思わない事ね『《風遁》風切刃』!」
おびなはトンファーの先に風の刃を作り出してあずきとの間合いを更に詰めた。
風の刃があずきの首に迫り、絶体絶命の状況。
あずきちゃん、間合いが取れなくてやられそうになったらさ、無理矢理にでも吹っ飛んじゃえばいいんだよ。自分がさ
はやてとの模擬戦をしていた時にまほろが言ってくれたアドバイスだ。
あずきはこのピンチにニヤリと笑った。
『
先程の仕返しとばかりにあずきの口から紡がれた言葉で発動した魔法は、あずきとおびなのあいだの空間で小さな魔法陣わ作って爆発を起こした。
あずきだけではなく、おびなも爆風で吹き飛び、模擬戦リングを転がった。
2人ともが吹き飛び転がるほどの爆発の大きさは、その一撃で変わり身人形が吹き飛んでもおかしくなかったが、2人ともの変わり身人形はなんとか無事であった。
そして、吹き飛ばされる事を前提として魔法を使ったあずきは、転がりながらもなんとか体勢を立て直し、おびなよりも早く立ち上がっていた。
「賭けは私の勝ちね。『
立ち上がるのが遅くなったおびなの隙をついて、あずきは準決勝にも使った自分の最大火力の大魔法を唱えた。
発生した炎の竜巻はおびなを飲み込み、変わり身人形を燃やし尽くした。
『
炎の竜巻から解放されたおびなは尻餅をついて悔しそうに笑った。
「くそー!負けた!ごめんね、しぐれちゃん!」
おびなの目尻には涙が浮かんでいる。
「お二人ともあっぱれですわ! 手に汗握る試合のおかげで私もたぎって来ましたわ!」
模擬戦リングの外でしぐれがおびなに向かって叫んでいる。
あずきはおびなに近づくと手を差し出した。
その手をおびなが握り返して引っ張るように起こした。
「危なかったわ。でも、私の勝ちね」
「次は負けない。もうあの手は食らわないから!」
「負けず嫌いね」
「うるさい!」
2人の握手に観客は拍手を送った。
副将戦も、まほろのグループが勝ったが、この勝利は魔法を教わっていなかったら無かっただろうとあずきは思った。
それほどまでに、おびなは試合慣れしていたし、強かった。
あずきは、まほろとの出会い、そして
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