第53話 対戦相手

まほろ達が観客席に着くと、先鋒戦、副将戦が既に終わっており、大将戦が始まろうとしていた。

これまでの結果は先鋒が猪狩トギグループ、副将戦は時雨しぐせグループが勝っている。


「あーあ。観客はさっきの試合で派手なパフォーマンス見せられたからこの準決勝の試合はしらけちまってる」


猪狩トギは、まほろ達の準決勝を持ち出して観客の反応に皮肉を言った。


「その様な感想が出てくるとは程度が知れますわ。騒いでいるだけが観客ではないのです。そして、本当に魅入られた観客は騒ぐのではなく黙るのですわ!」


トギの言葉に対して、時雨しぐれは自論を持って返答を返した。


娯楽として観に来ている観客達は驚き刺激の少ないこの準決勝よりも、先の試合の上級忍術の話をして盛り上がっている。


しかし、有力者達は一年生時の実力を把握して将来性を見ているのだから反応が少なくともしっかり見ている。


そうは言ってもしぐれは父の魅せる忍者に憧れて育った娘である。

だからこそ、この状況から観客を沸かせたいと思っている。


「それに、大技以外にも観客を盛り上げる方法はありますの。不利な状況を跳ね返す、努力と根性ですわ! 簡単に、負けないでくださいね」


審判の教員の合図で試合が始まった。


先に動いたのはしぐれであった。


身の丈より大きな刀、本来は馬を薙ぎ倒すための刀を引きずってトギに向かって走り出した。


重い武器を持っているとは思えないスピードで、トギに迫る。


これまでの試合、しぐれは色々な武器を使って来たが、これほど大きな武器は初めて使っている。


トギは落ち着いて、牽制のために炎玉を正面に撃つが、しぐれは炎玉を飛び越える様に飛び上がると、勢いのままトギに向かって大刀を振り下ろした。


模擬戦リングの石畳を壊したのか土埃が上がる中から、転がる様にしてトギが出てきた。


「これでは立場が逆ですわ! 不利な状況から逆転するから盛り上がりますのに、これは決勝戦までお預けかしら?」


しぐれが挑発しながら土埃を大刀を横薙ぎに払って飛ばした。


「馬鹿力が!」


トギは腰のホルスターからクナイを両手に取り出して構えた。


「華奢な女の子が馬鹿デカい武器を扱う。これは萌えなのですわ!」


「意味がわからねえ、よ!」


大刀を肩に乗せて自慢げに胸を張りながら説明するしぐれに、トギは悪態を放ってから攻撃を仕掛けた。


「落ちこぼれ用に用意した新技だが、勝たなきゃ何にもならないからな、驚きやがれ!」


トギはこれまでの試合、口から吐く炎玉と火炎玉、後は体術だけで勝ち抜いてきた。


それはチャクラの温存と、手の内を隠していた


入学間もないこの時期には、基礎である口からの忍術を教えられるだけなので、一年の部は口に注意しておけば忍術を使う予兆が掴めるので戦いやすい。


炎斬おのおぎり


トギはクナイを横に振るうとしぐれに炎の斬撃を飛ばした。


口からではない事で不意をついた攻撃だが、これで終わりではない。


トギは続いてしぐれの方に走り出しながら手で印を結ぶ。


印とはチャクラの質を高め、増幅し、適応した忍術に最適化させる為に行う行為である。


十二支をモチーフにした手遊びを規則的になぞる事で行うお呪いおまじないである。


『《火遁》蜃気楼分身しんきろうぶんしん


火遁のチャクラによる寒冷差を利用して蜃気楼の分身を作り出す忍術だ。


相手を惑わせる効果しかないが、人数が増えるほど、誰が攻撃してくるか分からない。


トギはの蜃気楼分身は7人。戦闘慣れしていない一年生には十分な数である。


「素晴らしいですが、あまいですわ!」


しぐれはまだまだトギとの距離があるにも関わらず、大刀を振るった。


そして振るったと同時に持ち手を不自然に捻る。


すると刀の刀身がバラバラに分割され、一本の鋼糸によって繋がった蛇腹の刀に変わった。


鞭のようにしなり、蛇のような変幻自在の太刀筋で、7人のトギを狙い射ち、トギの本体を絡め取って模擬戦のリングに頭から叩きつけた。


その衝撃で、場外にあったトギの変わり身人形は、頭が潰れてしまい、トギの敗北が決まった。


はやてやあずきの様に、大技の華がある試合でわ無かったが、特殊な武器の使い分けにより見事勝利したしぐれは、観客の注目を集めた。


こうして、一年生の決勝の組み合わせは、まほろのグループとしぐれのグループに決まったのであった。

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