第52話 王生

「はやて!」


まほろ達が観客席に向かっている途中で、はやての名前を大声で呼ぶ声がして、はやては立ち止まった。


「はやてちゃんの事呼んでるみたいだよ?」


いつまで経っても声の聞こえた方を振り向かないはやてを不思議に思いながら、まほろははやてに呼びかけた。


「う、うん……せやな、まほろちゃん」


まほろに返事をしたはやての顔は、見たことがないほど狼狽えていた。


3人が振り返った先に居たのは、長身の男性であった。


「はやて、先程の試合を見たぞ。お前は忍術を使えるようになったのだな。それも、チャクラの量が多いようだ。お前に、王生いくるみを再び名乗る事を許す。すぐに荷物をまとめて退学をしなさい」


男性の言葉に、いつもなら何か言い返しそうなはやては何も言わずに震えている為、代わりにまほろが返事を返しす。


「いきなりなんですか、あなたは一体____」


「部外者は黙っていてもらおう。これは王生の問題であり、私ははやての父親だ」


「え、でも、はやてちゃんはお父さんはいないって……」


男性の言葉は、先日聞いたはやての言葉をひていするものであった。


「はやてに、私の娘であると名乗る事を許可していない。落ちこぼれの失敗作であったはやては、その失敗作を生み出した女と共に里を追放した。しかし、たまには戯れに学芸会を見に来たのは良かった。誘ってくれたキリクに褒美をやらんとな。いいゴミ拾いができそうだ。さあ、来なさい」


男性のあまりのいい様に、まほろとあずきははやての前に立って男性の視線からはやてを遮って守った。


「なんだ貴様らは? これは王生の問題だと言っているだろう?」


「違うね、これははやてちゃんの問題。だから、私は友達として師匠として、はやてちゃんを守る」


「私も友達として、はやてちゃんを支えます」


はやてを守る発言をしたまほろとはやてを、男性は鼻で笑った。


「何が師匠だ友達だ。学生のままごとなどさせてているから他の里は衰退していくのだ。お前らなどよりも我が里の方がはやてを有効的に____」


「うるさい」


「なに?」


男性の言葉を遮ったのは今まで黙って震えていたはやてであった。


「うるさいぃ言うたんやボケ! さっきから黙って聞いてたら好き勝手にいいよって! 私は王生を名乗りたいと思た事なんて一度も無い! お母ちゃんを追い出したあんたの事を父親やと思った事は一度も無い! 私は王生でも無ければ忍者でも無い! 私の苗字はお母ちゃんから貰った速水だけ、魔女の始祖の一番弟子氷の魔女速水はやてや!」


はやてが震えていたのは怯えていたからではなく、怒りで震えていただけだったようだ。


「失敗作のゴミが、楯突くか!」


「王生よ、子供はお前のおもちゃでは無いぞ」


怒りを露わにした男性の言葉に意を唱えたのは、まほろの父、東雲シラハであった。


「あずき達が来るのが遅いから見にくれば、これはどう言う事ですかな? 王生さん」


あずきの父小鳥遊ダイナだ。


「これは王生の問題だ。口を挟まないで貰いたい!」


「おかしな事をおっしゃる。一度親権を手放せばそう簡単に戻る事はない。はやてちゃんは速水はやて。王生とは関係ないでしょう?」


「ク、親切に再利用してやろうと言ったのに、お前の兄弟、いや、兄弟でもないか。我が王生は秋の大会にもでる。その時に、この事を後悔する事だな!」


男性は、分が悪いと思ったのか捨て台詞を吐いて去って行った。


男性が去った後、はやてはシラハとダイナに頭を下げた。


「守ってもろて、ありがとうございました」


「いや、王生は何かと問題のある里だ。娘の友達が困っていたら助けるのは当たり前さ。それよりも、私達以外にもお礼を言わないといけないだろう?」


シラハの言葉で、はやては元気にまほろとあずきに抱きついた。


「2人とも〜、ほんまにありがとうな! 助かったわ〜」


「当然だよね、友達だもん!」


「はやてちゃんが居なくなったら悲しいしね」


まほろとあずきは、はやてを受け止めて無事を喜んだ。


「ほら、早く席に行かないと試合が終わってしまうぞ、お母さんもまってる急ごう」


ダイナの言葉で時間が経っている事に気づいて、まほろ達は慌てて観客席に向かうのであった。


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