第51話 学生大会3日目《まほろの試合》
はやてとあずきの試合で、会場のボルテージは上がっている。
2勝先取で、大将戦が消化試合になったとて、試合の結果ではなく、試合内容に期待して観客達は大将戦を観ている。
はやてとあずきが派手な大技を使ったのだから、大将にも期待と言う訳である。
ここで相手の大将やまほろがグループでの勝敗は決まっているからと棄権したりしたら大ブーイングだろう。
そして、まほろに求められているのは、観客に魅せる
そして相手の対象は、困難を打ち破っての一勝である。
「僕は棄権なんかしないよ。僕だってこれまで必死に修行して来たんだから!」
まほろの対戦相手が戦闘体制に入ったのを察して、慌てて審判の教員が試合開始の合図を出した。
そこはこの対戦相手に「試合開始はまだだ」と言って止めるところではなかろうかとまほろは思うが、先程の試合であずきがフライングしていたのでこれでお相子という事にしよう。
対戦相手は、さきほどのはやてとあずきの試合を見ていたからか、いきなり大技で決着をつけようとしてきた。
しかし、大業といってもはやてやあずきの広範囲魔法のようなものではなく、対戦相手なりの精一杯。
チャクラましましの火炎玉であった。
この時期に中級忍術を使えるのは努力の証だし、だからこそ、この準決勝の舞台に立てたのだと思う。
しかし、先の二試合と比べてしまうと、明らかに見劣りするものであった。
先の二試合のような展開を期待していた観客達は、あからさまにガッカリしたような様子になり、中には、ブーイングをする観客まで現れてしまった。
まほろは、その反応にイラッとした。
勿論、対戦相手の彼の努力をちゃんと見て応援している観客も沢山いるが、悪意のある声は、より大きく聞こえてしまう。
まほろは、予定を変更して、魅せるような魔法を使うのをやめた。
魔素による身体強化をすると、普通の2倍ほどの大きさがある火炎玉を躱すように潜り抜け、対戦相手の元に辿り着くと、思いっきり、手に持った箒をフルスイングした。
チャクラをほぼ使い果たしていた対戦相手は、ガードをする暇もなく、体をくの字に曲げて場外まで飛んでいった。
なんの派手さもないが、まほろの勝利であった。
呆気なく終わってしまった試合に、先程対戦相手にブーイングをしていた観客は今度はまほろにブーイングを送った。
先程までの自分の言葉を棚にあげて「対戦相手は全力を尽くしたのに敬意に欠ける戦い方」だとか「やはり落ちこぼれだけあって卑怯な戦い方」だとか、そんな事を言っている。
しかし、まほろは誹謗中傷の声には慣れている。
その言葉を背中に受けながら、まほろは模擬戦リングから退場した。
帰って来たまほろを、はやてとあずきが出迎えた。
「ほんま勝手なやっちゃで。選手にブーイングはマナー違反や!」
「自分達ならなんて声も聞こえたけど、そもそもその場に立ったらあの人達って何もできないんじゃないかしら?」
はやてとあずきはマナーの悪い観客に苦言を呈した。
「東雲まほろ! 良くやりましたわ!」
控え室に飛び込むようにしてやって来たのは時雨しぐれだった。
「あなたの戦い方、ヤジを飛ばすような程度の低い観客はにはわからなかったようですが、メインの客席の有力者や実力者はきちんとあなたの戦いの意図が伝わってますわ! やはり、あなたは私のライバルです! 噂では私が今から戦う猪狩と言う生徒がライバルだと噂されていますが、私が勝ち抜いてあなたの前に立ちはだかってみせますわ! 心して待っていら____」
「しぐれちゃん、早く行かないと私達の準決勝が始まっちゃうからね、不戦勝は嫌でしょ? みなさん、お騒がせしました」
時雨しぐれは、グループメンバーに引きずって連れて行かれた。
「面白い人ね、時雨さんって」
「でも、ええ人やな。わざわざまほろちゃんに自分の思いを伝えに来てくれた」
「熱い人だよね。決勝で戦うのが楽しみだね」
「ほな、観客席に行って時雨さん達の準決勝みよ! まほろちゃんのお父さんとあずきちゃんお父さんお母さんが席取ってくれてる言うてたし!」
まほろ達はもう、ブーイングの事など忘れて、決勝の相手が決まる準決勝を見るために、観客席へと向かうのであった。
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