第50話 学生大会3日目《あずきの試合》

模擬戦のリングに上がったあずきに、会場の歓声が降り注いだ。

やはり雑誌などで有名であるので、昨日の試合を見た観客があずきの話を他にしたと言うのも、理由の一つであろう。


先程までは無かったのに、[ガンバレ!あ・ず・き!]という垂れ幕が観客席に掛かっている。


「流石アイドル、大人気だね」


対戦相手の男の子にの言葉に、あずきは笑顔でクスリと笑って「ありがとう」と答えた。


その反応に、対戦相手の男の子はつまらなそうに顔を背けた。

アイドルの人気だけと言う皮肉だったのかもしれないが、その程度の揺さぶりで調子を崩すようなあずきではない。


逆に、挑発の程度がかわいいと思いクスリと笑ってしまった。


男の子の頬が若干あからんでいることから、もしかしたらこの対戦相手もあずきのファンということもありえる。


しかしそんな事は関係ないので、その後はお互いに無言のまま試合開始の合図を待った。


昨日は属性魔法禁止しばりだったけど、今日は解禁されている。


魔女になる事を認めてくれたお父様に、良いと所を見せたい。


先程のはやての魔法も凄かったが、せっかく見せるならあれを越える魔法を見せて驚かせたい。


昨日の食事の時に《炎の魔女》とはやてに言われたように、あずきの得意な魔法は火属性魔法である。


あずきはこの会場で、事故が起きないギリギリの、とびきりの魔法を使う事にして、大気中の魔素をコントロールした。


大気中の魔素を、一般人(忍者を含む)は分からないので文句を言う者はいないが、リング外の控えの席ではやてが「あずきちゃんのあれはフライングちゃうんか?」とまほろに質問して、「まあまあ」と宥められている。



「副将戦、開始!」


審判の教員が合図をして試合が始まったのと同時。


Fireファイア Stormストーム


あずきが手で仰ぐように魔素の流れを対戦相手に送りながら、呪文を唱えた。


会場に、暖かい風が吹き始めたかと思う時、その中心は対戦相手のいる場所で、次の瞬間、一瞬にして炎の竜巻が発生した。


対戦相手の男の子は、炎の竜巻が起こるまでの時間の間に、暖かい風を感じておかしいと思ったのか、それともただ単純に攻撃を仕掛けようと思ったのか、竜巻の発生場所から離れてあずきの方に向かって攻撃を仕掛ける為に走り出していた。


炎の竜巻を背中に逃げるようにあずきに向かってくる対戦相手の男の子に、あずきは微笑みながら顔の横で小さく手を振った。


まるでさよならとでも言わんばかりの行動であった。


その瞬間、竜巻の勢いは増して、吸い込むように対戦相手の男の子を各々中に引き摺り込んでいった。


男の子の絶望の顔を気にする暇はなく、審判の教員は、自分が吸い込まれない様に必死にリングにしがみつき、観客は帽子など自分の持ち物が飛んで行かないように押さえている。


対戦相手の男の子が、炎の竜巻に吸い込まれた直後に、あずきの口が動いた。


disperseディスパース


言葉と同時に、あずきが指をパチンと鳴らすと、炎の竜巻は一瞬にして嘘の様に消え失せた。


しかし、それが幻ではないと証明する様に、対戦相手の男の子は、無傷ながらも衣服が少し焼けこげて、髪の毛も、少しチリチリと焦げているところがあった。


対戦相手の男の子の変わり身人形は、黒焦げの上に身体中が切り刻まれてボロボロである。


審判の教員が慌ててあずきの勝利を告げると、シンと静まり返った観客たちが歓喜した。


あずきはファン達の声に手を振りながら、リングを降りて、まほろとはやてにハイタッチをした。


「張り切りすぎ!」


「細かい事はえーやん!これで2勝!決勝やで!」


「ありがとう。ちょっと火力が強かったわね」


あずきはお礼を言いながらもまほろの言葉にテヘッと舌を出して答えた。


「それじゃ、私も行ってくるね!」


まほろはまるで遠足でも行くような調子ではやてとあずきに言うと、模擬戦リングに向かっていくのであった。





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