第43話 父の気持ち
ダイナとあずきは2人きりになって、少しの間無言の時間が過ぎたが、ダイナの方から話し始めた。
「先程のが魔法か?あれはすごいな」
「え、あ、うん」
あずきはダイナから肯定の言葉が出るとは思っていなかったので微妙な返事をかえした。
「あずきが飛び出して行ったあの後な、カメラマンの
ダイナはあずきが頷くと、ゆっくりと話し始めた。
それは、ダイナの若かった頃の昔話だ。
ダイナは小鳥遊の家に生まれて、敷かれたレールの上を歩いてきた。
そんなダイナにも、昔に家を飛び出して自由に生きたいと思ったことがあり、家を飛び出したことがあった。
その時、小鳥遊という名前を隠して仲間を作り、フリーの忍者グループとして色々な依頼をこなし、それなりに充実した日々を送っていた。
そんな日々が、終わりを告げたのは突然だった。
仲間が、ダイナを省いて話をしているのを聞いてしまったのだ。
その内容はダイナの父、つまりはあずきの祖父への報告の連絡であった。
ダイナが家を飛び出してから今まで、できた仲間は家の息がかかった者で、こなしてきた依頼も家からの斡旋だったのだ。
それを聞いてショックを受けたダイナは仲間との連絡を断ち、今度こそ自分の力だけでやってやると意気込んだ。
しかし、待っていたのは厳しい現実であった。
コネも何も使わずに、仲間を募っても、大体のグループは学生時代からの延長で組んでいて、新しい人員など求めていなかった。
依頼に関しても、小鳥遊の名を使わない無名の忍者に依頼をする者などおらず、学生時代に成績優秀で、将来を期待されていたダイナは、勇んで飛び出した時の自信は、遂に無くしてしまっていた。
そんなダイナにも、欠員が出たグループから誘いがかかり、ついに依頼を受ける事になった。
チャンスを物にする。
その思いに、ダイナは頑張ったが、結果は空回りしただけであった。
今まで、小鳥遊としてリーダーを務める教育を受けたダイナはグループの中で実力はずば抜けていた。
しかし、それ故に連携は上手くいかず、ダイナはグループの不協和音となって、すぐにグループを追い出されてしまった。
今までのグループは、小鳥遊が用意したグループであった為、上手く行っていたに過ぎない。
心が折れてしまったダイナの前に、ダイナの父が現れ、戻ってくる様に優しい言葉をかけた。
ダイナはその言葉に頷いて、小鳥遊に戻ると、今までの事が嘘の様に全てが上手くいった。
結局の所、ダイナは敷かれたレールの上を進むのが正解だったのだと思い知らされた。
小鳥遊をでた、あの期間、苦しい思い出があるからこそ、自分の可愛い娘には、あの時の自分のような思いはしてほしく無いと思った。
だから、自分がしっかりとしたレールを用意してあげなければと思い、自分の後をちゃんと継いで、その上で小鳥遊を大きくして行けるようにと色々と画策した。
有力な里の長の家と繋がりを作ろうとしたのもその一環であった。
しかし、その中で、過去の自分のように、家の力に頼らず、自分の道を進もうとする少女を見つけた。
それも、娘と同い年で、娘の口からその少女の名前が出た。
関わらせてはいけない。そう思った。
辛い思いをしないように、大切に大切に、籠の中で育てる為に。
それが、あずきの為になると信じていた。
「ねえ、お父様」
あずきは、ダイナの話をしっかりと聞いて、初めて口を挟んだ。
「私は、別に小鳥遊を出たいと思ってるわけじゃ無いよ」
「ああ……」
「でも、私は忍者じゃなくて魔女になりたいの。まほろちゃん、忍者よりも凄い魔女に出会ってしまったから」
「……そのようだな」
ダイナは、遠くから自分とあずきを見守る2人の少女の内、1人を見た。
娘から遠ざけなければと思っていた少女は、自分のような、ちっぽけな存在ではなく、鳥籠を破って青空を飛ぶ事ができる存在だった。
昔馴染みのカメラマン、間紙に言われた言葉だ。
どうやら自分のちっぽけな物差しでは、測れないくらいに娘の未来は広がっているようだ。
「あずき、精一杯努力して、立派な魔女になりなさい。困った事があれば、お父さんがなんとかしてあげるから、大切な友達と、立派な魔女に」
娘にはもう自分の敷いたレールは必要ないが、娘の成長の手助けぐらいはできると、せめてもの見栄を張った。
「ありがとう、お父様」
あずきはダイナの言葉に、とびきりの笑顔で返事をした。
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