第41話 スタジオの乱

「へぇ、仲良い友達ができたんだね」


「はい。2人ともとても大切な親友です」


あずきは、撮影の準備で、いつもセットをしてくれるヘアメイクさん達と楽しく話していた。


「いいわね。新しい学校、新しい出会い。大人になるとだんだん無くなっちゃう物だから羨ましいわ」


「お揃いの服をオーダーメイドで作ったんですよ。まほろちゃんの紹介で」


「オーダーメイド!凄いわね、最近の学生は」


ヘアメイクさん達は、あずきの話を引き出すのが上手いので、あずきは、考え込んで暗くなっていた顔に笑顔が戻っている。


楽しく話をしていると、急に空気がピリついたように皆の話し声が小さくなった。


小鳥遊ダイナ、あずきの父がやって来たからである。


ダイナはスポンサーもしている為、スタッフは失礼をするわけにはいかない。


あずきがこの雑誌のモデルをし始めたのもコネの力が大きい。


もちろん人気が出たのはあずきの実力だが、きっかけはコネだ。


それも、里の力を拡大する為のダイナの作戦の一つなのだろうが。


メイクの途中だが、あずきは席を立ってダイナに挨拶に向かった。


「お父様、お久しぶりです」


「あずきか、学校ではちゃんと上位の成績を収めているのだろうな?」


「……はい」


「中等学校からは他の里も混ざり合って学ぶ。他の家に負けるでないぞ」


ダイナは、それだけ言うと、雑誌の編集長と話をする為に奥へ行ってしまった。


あずきの気持ちは、その話を聞いてまた暗く沈んでしまった。


その影響もあり、撮影に移ってもあずきはNGを連発した。


「あずきちゃん、今日は笑顔がぎこちないわ」


「ごめんなさい……」


「いいわ。ちょっと休憩しましょうか」


撮影は一旦休憩に入り、あずきは、ため息を吐いて椅子に座った。


「いつまで自分の気持ちに蓋をするの?」


俯いていたあずきははっとなって顔を上げた。


「君の友達はそんなに恥ずかしい人なの?」


「え?」


「僕はカッコいいと思うけどな。誰になんと言われようと自分の道を貫き通す。ね?」


ライアの言葉にあずきは自分が恥ずかしくなった。


自分がなぜ、まほろに憧れたのかを思い出した。


「お、顔つきが変わったね、がんばれ!」


ライアはにっこりと笑うと、自分の撮影に向かっていった。


「あの、お願いがあるんですけど、」


あずきは、カメラマンとスタッフに、自前の服での撮影をお願いした。


もちろんスポンサーの関係でこなさないといけない服やアクセサリーはあるけど、なんとか割り込ませる事を了承してもらった。


その写真で、あずきのモチベーションが変わるなら、スタッフ達としては悪い提案では無かったと言うのもある。


あずきは、覚えたての魔法召喚魔法を使って服と箒を学生寮の自分の部屋から呼び寄せる。


「この格好で、お願いします!」


いつもの服に着替えたあずきの顔は、先程までの暗い顔が嘘のように明るく輝いていた。


思いを吹っ切る事ができたのであろう。


「なかなかハイカラな服じゃない!面白いわ!みんな、撮影の準備をして!」


それからの撮影は過去一とカメラマンが太鼓判を押すほどの写真が撮れた。


いつもの何倍も輝いてみえるあずきの笑顔は、カメラマンを魅了した。


何枚もの写真を撮り、カメラマンがOKを出そうとした所で、撮影現場に大きな声が響いた。


「何をやっている!」


声の主人はあずきの父のダイナであった。


「お父様___」


「なんだそのみっともない格好は!まるであの東雲まほろみたいではないか!」


ダイナの怒りはあずきの格好で、友人を馬鹿にするものであった。


「お父様、まほろちゃんは私の友達です。私は___」


「あんなはみ出し者と友達になどなるな! お前は私が敷いたレールを進んでいけば幸せになれるんだ!」


「誰の幸せですか!」


あずきは、生まれて初めてダイナに言い返した。

ダイナの言葉に、我慢ができなかった。堪忍袋の尾が切れた


「お父様が言うのは自分の幸せでしょう!一族の幸せでしょう! 私の気持ちなんて考えてないくせに!私はずっとまほろちゃんに憧れてたんです!ずっと友達になりたいって思ってたんです! 私はもう、お父様の操り人形にならない! 私は今日でモデルと仕事もやめる。私は忍者になんてならない!私はまほろちゃん達と一緒に魔女になる!」


「待ちなさい、あずき!」


言うだけ言ってスタジオを飛び出したあずきにダイナが声をかけるも、あずきは止まらない。


追いかけたダイナが外に出た時、あずきは居なくなっていた。


どこを見回しても見つからない。


空へ飛んで行ったなどと想像もできない為、上を見なかったのは仕方がない事であろう。


スタジオに戻ったダイナはイライラとした様子で移動の準備をするように叫んでいる。


皆がダイナの荒ぶる姿を恐れて縮こまる中、勇気を出して声をかけたのはカメラマンと綾乃ライアであった。




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