第38話 茶屋

まほろ達3人はひとっ飛びして、はやておすすめの茶屋までやって来た。


「ごめんください、お久しぶりです……」


茶屋の暖簾を勢いよく潜って、はやてが挨拶をするが、尻すぼみに声が小さくなっていった。


「あぁ、すいません。3人なんですけどいけますか?」


はやてが背後にいるまほろとあずきの方に振り向いて「新人さんの知らん人やった」と言って恥ずかしそうにペロッと舌を出した。


「あんた、いく___」


「こずみぃ!」


「ひゃい!」


店員さんが何か話そうとした所で、奥から怒鳴り声が聞こえた。


まほろ達も急な大声に体をビクリと震わせる。


「こずみ、今日はもう上がってええ。後は俺だけで何とかなるわ」


「え、あ、はい。お疲れ様です」


奥から現れたのは、強面の老人であった。

こずみと呼ばれた店員さんは、頭を下げて退店していった。


「おう、久々やのう嬢ちゃん。いつものうどんか?」


強面の老人ははやてを見ると、ムスッとした顔の目尻を少し下げて質問した。


「はい!あっまいお揚げさん乗せたやつ3つお願いします!」


「はいよ。座って待っとれ」


はやては嬉しそうに、うどんを注文すると、まほろとあずきと一緒にテーブル席に座った。


席に座ったはやては、まほろとあずきに手招きすると、暖簾の奥の厨房を覗き込んだ。


厨房では強面の老人1人で、うどんをお湯に放り込む所だった。


「ここな、前はおっちゃん1人でやってたんやけど、店員さん雇ったんやな。まあ美味しいから繁盛した時1人やと困るもんなあ」


強面の老人は手際良くうどんを湯掻いて湯切りをすると、つゆと大きな油揚げ、かまぼこを入れて、完成したうどんをお盆に乗せると、覗いている3人に気づいた。


「なんや、こんなん見ててもおもんないで? どれ、できたで持ってったるわな」


強面の老人は3人の座る席にうどんを配膳すると、笑顔ではやてに話しかけた。


「嬢ちゃんは今年から中等学校やなかったか?」


「そうや。今日は友達ができた事をお母ちゃんに報告しにきてん」


「そうか、そりゃええこっちゃ。お嬢ちゃん達もゆっくりしていきや」


強面の老人ははやての話を嬉しそうに頷きながら聞くと、まほろとあずきに声をかけて奥へ戻っていった。


「ここのお出汁めっちゃ美味しいねん。このお揚げさんもおっきいやろ? 早よ食べよ」


はやては嬉しそうにうどんの美味しさを語り、2人に勧めた。


「「「いただきます」」」


3人は同時にうどんをすすった。


「やっぱりこの味やわぁ!」


「うん、このお出汁とっても美味しいわ」


「お揚げもふわふわだよ」


3人が美味しそうにうどんを食べる姿を、強面の老人は暖簾の隙間から嬉しそうに見守っているのであった。


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