第32話 制服登校
入学式の日から時間は経って、生徒達も学校に慣れて来た頃、いつもと変わらない登校風景のはずが、生徒達から注目を集める生徒がいた。
奇妙な服に黒いローブを羽織った女子生徒。
学校が始まって数日で皆がなれた光景であった。
しかし、それが3人に増えれば皆の注目を集めるだろう。
しかも、その中の1人は今年の新入生の中で、ただでさえ注目を集めた小鳥遊あずきであった。
楽しそうに和気藹々と話しながら登校する3人組を見た他の生徒達は、ギョッとした様子で3人組を見る。
「やっぱりこの格好やと皆んなにようさん見られんのやな。なんか恥ずかしいわ」
「そんなの気にする必要ないわ。だってこれは私達の決意の証だもの」
周りからの視線に苦笑いするはやてに、見られる事に慣れているあずきが返事をした。
決意の証と言うのは誇張しすぎであるが、この格好はあずきとはやての2人がまほろと同じ魔女になる事を意味している。
昨日の夜にまほろが空を飛ぶ所を見てから、あずきは今までよりもさらに意欲的に魔法の勉強に取り組んでいる。
周りからの視線は、学校について、教室についても変わらなかった。
それどころか、同級生、クラスメイトという身近な生徒になったせいで、登校中は遠巻きに見るだけであった視線も、教室に入れば話しかけてくる生徒がで出したのだ。
それが好意的な言葉であればいいのだが、現代日本では普通の格好であるブレザーの制服も、黒いローブも、この世界では変わった格好、特殊な格好だと言われてしまう。
「なんだよ、お前ら落ちこぼれと同じ格好して!」
教室の離れた所から差別的な発言をしたのは猪狩トギであった。
教室に響いた大きな声に、教室内の生徒の冷たい視線が突き刺さったが、本人は鈍感なのか、その事に全く気づいていない。
このクラスにいる生徒のまほろに対しての印象は、初授業の時にガラリと変わった。
逆に自分が模擬戦で負けたにも関わらず、まほろを落ちこぼれと言い続けるトギに対して、周りの態度は冷ややかだ。
それでトギが孤立するわけではなく、ある程度の友達、仲間が周りにいる。
トギの発言を負けず嫌いとして訳の分からない術を使うまほろに対抗心を燃やすグループだ。
「かわいいでしょ。私もまほろちゃんと同じ服をオーダーメイドしたの」
雑誌にも載ったことのあるあずきがそう言うと、クラスの何割かは確かに可愛いかもと納得してしまうのは不思議である。
しかし、そんな事をカケラも感じない者もいる。
「だっせえよ! 小鳥遊は雑誌に載ってた時に着てた服のが良かったよ。俺もあの雑誌に載ってた彩乃先輩が着てた服の色違い買ったし!」
やはり空気が読めないのはトギである。
とは言え、あずきが雑誌で着ていた服のシリーズは売り切れ続出のブランドなので、この世界の常識ではそちらの方が可愛いと思うのは普通なのかもしれないが、本人の前で今着ている服を否定してしまうのは空気が読めないと言わざるを得ない。
「デリカシーのない男やで。しかも何やおもたら自分の服の自慢かいな、さっぶいわ〜」
「あ? 変な服を変って言って何が悪いんだよ!」
「こっちは可愛いと思って着とんねん、勝手にあんたの完成押し付けんといてくれますぅ?」
はやての言葉にトギは顔を真っ赤にして言い返す。
「そんな落ちこぼれの真似して何が楽しいんだよ!」
「まほろちゃんに負けたあんたにまほろちゃんを落ちこぼれ言う資格ないわ! まほろちゃんは尊敬できる私の先生や、アホな事ばっか言うてたらゆるさへんでぇ!」
「はん!落ちこぼれ同士傷の舐め合いかよ」
「なんやて〜〜!」
トギとはやての言い争いが盛り上がって、一触即発の雰囲気になっていた所で、教室にパンッという大きな音が響いた。
「はやてちゃん、凝り固まった考え方の人と話をするだけ無駄だよ。放っておいて私達はもっと先に行けばいいと思うよ」
トギとはやての話を終わらせたのはまほろであった。
まほろの言葉には、やてにはすごく納得のできる話であった。
はやてはクスリと笑って「そうやね、まほろちゃん」と同意すると、自分の席に荷物を置いてあずきと一緒にまほろの席に向かった。
教室では、トギが「おい、逃げんのか、落ちこぼれ」と叫んでいるが、無視である。
トギが感情に任せて行動に移そうとするのをグループメンバーが止めに入り、トギの説得をするのであった。
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