第5話 朝の準備
入学式の日の朝、まほろはけたたましく部屋のドアをノックする音で目覚めた。
ドンドンとドアを叩く音が続くので寝ている事ができずに、まほろはむくりとベットから起き上がった。
寝巻きの格好のまま外に出るのもアレなので、とりあえず上から黒のローブを羽織って、包まる様にして前を手で閉じ部屋着を見えなくした。
ドアの方に向かうと、ドアを叩く音の間に誰かが喋っているのが分かる
「まほろちゃーん、おはようさーん!」
声の主人は姿を見なくても分かる。速水はやてだ。
食堂で話しかけてくれて以降、まほろとはやては共に行動する事が多くなった。
とは言っても、はやてが何かにつけて付いてくるだけだが、まほろは別に孤独の一匹狼が好きなわけでは無いし、友人として仲良くやってはいる。
ただ、こんな朝早くから部屋に来るのは迷惑である。
まほろは、寝起きの低血圧でまだ気だるい体を引きずって、部屋のドアを開けた。
ドアを開けると朝日を浴びて光るはやての水色の髪が眩しくて開ききっていない目を更に細くした。
「あ、まほろちゃんおはようさん! ってまだ寝起きか?」
天真爛漫と言う言葉が似合う笑顔を驚きに変えてはやてはまほろに質問した。
「何言ってんのよ、こんな朝っぱらから大声で近所迷惑で____」
まほろはそこまで話して目に映る光景の違和感に気づいた。
自分が今眩しいと感じた陽の光、颯の後ろを歩いていく生徒達。
まほろはクワっと目を見開いて自室の時計を確認した。
時計の針は5時20分頃、しかし、秒針は7から8の位置辺りで力無くプルプルと震えている。
「はやてちゃん、今、何時!」
はやての両肩をがっしりと掴んだ勢いで腕を通していなかった黒ローブがはらりと床に落ちるがそんな事は気にしていられない。
可愛らしい猫柄の寝巻きが露わになるが、否応なしだ。
「何時って7時半やけど、まほろちゃん寝巻きって、あんた今起きたんか?」
7時半。入学式は9時集合だが、その為食堂は8時半には閉まる。
女の子の朝の準備は時間がかかる。
12歳のこの年齢で気にしていない生徒も沢山いるが、前世で社会人まで経験したまほろは朝からシャワーを浴びて準備をするタイプだ。
それに前世ではスウェットスッピンでコンビニに行けない人間であった。
なので、この歳なので化粧まではしないが、ボサボサ頭、寝巻きの格好で食堂に行くのは無理だ!
「ごめん、はやてちゃん、悪いんだけど今日は私ご飯抜くから1人で言ってくれる?」
「分かったわ。入学式には遅れやんように早めによういしてや! それじゃ、私は行ってくるわな」
まほろが両手を顔の前で合わせて謝罪すると、はやては笑顔で了承して1人で食堂へ向かっていった。
まほろは部屋に戻ると急いで寝巻きを脱ぎ捨てて、部屋に備え付けのシャワールームに入った。
寮がキッチンが無いワンルームマンションの様な作りなのはとても助かっている。
既に驚きと焦りで目は覚めていたが、シャワーを頭から浴びて寝癖の髪をリセットしながら気持ちを落ち着かせる。
寝汗を流し終えたらシャワールームから出てしっかりと髪の水分をとった後は髪を乾かす。
胸まで伸ばした長い髪だから、乾かすのに時間がかかるがきちんと乾かすと自前の紫がかった紺色の髪が艶やかに指通りも良くなる。
次は毛先のあたりをコテで巻く。
巻き終えたら高い位置でのポニーテールに結んでいくのだが、姫カットにしている頬の髪を巻き込まない様に注意しながら慎重に。
うん、ポニーテールの先の巻き髪が今日も可愛い。
髪のセットが終わったら服を着るのだが、私の服はこの世界の和装風とは違ってブレザーにスカートなので着るのは早い。
最後にトレードマークの黒ローブを羽織って鏡の前で一回転して変なところはないかを確認する。
「よし、完璧!」
時間は分からないけど、はやてちゃんが迎えに来てないから大丈夫なのだろう。
間に合った事にまほろが「ふぅ」と息を吐いたのと同時に部屋のドアがノックされた。
「まほろちゃん、大丈夫か?」
ナイスタイミングだった様だ。
まほろがドアを開けるとはやてが笑顔で立っていた。
「大丈夫、準備完了!」
「時間はまだ大丈夫や。それよりも食堂のおばちゃんにおにぎり作ってもろてん、まほろちゃん食べるやろ?」
はやてが言うにはまだ8時20分で、学校に向かうには余裕があるそうだ。
はやての気遣いに感謝しながら、はやてを部屋に招き入れる。
はしたないと言われそうだが、部屋にはテーブルなど置いてないのでベッドに2人並んで腰掛けて、はやてに貰ったおにぎりを食べながら今日の入学式について、色々と話をした。
おにぎりを食べ終わって、歯を磨いたらそろそろいい時間だ。
「お待たせ、それじゃ、はやてちゃん行こうか」
まほろは立てかけてある箒を肩に引っ掛ける様にもった。
「よっしゃ、楽しみやわ!」
最終的には、まほろとはやての2人は余裕を持って学校に向かう事に成功したのであった。
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