第4話 少女はやて
寮生活が始まって数日もすれば、学生同士で仲良くなり、友達やコミュニティもでき始める。
しかし、まほろにはまだ友達ができていなかった。
和装を基調とした忍学校のなかで、まほろの黒ローブという格好は特に目立つ。
箒を物語の中の槍を持ったキャラクターのように、肩に引っ掛けて歩く姿を、周りは珍獣の様に避けた。
それに、一つの事実が噂話として広まっている。
学校始まって以来の
その噂は、まほろの東雲と言う名家の苗字のせいもあって、コネ入学などの別の噂を生み、更にまほろを孤立させる結果となった。
まほろは、寮の食堂で朝ごはんを受け取ると、空いているテーブルに腰掛けた。
魔女に憧れているまほろはだが、忍の世界に感謝している事もあった。
今日の朝ごはんのメニューは白米、味噌汁、焼き魚、あとは小鉢できんぴらと言った和食のラインナップである。
これは今日だけでなく、この世界では和食が一般的だ。
物語では米を探すだけで何年もかける話もあるのに、この点は、ご飯党であるまほろにはとても嬉しい事であった。
それに、今日のように純和風のご飯以外に、カレーやオムライスなどといった日本洋食の、米を使ったメニューも存在する。
まほろがご飯を食べ始めると、テーブルの向かいの席に、相席をする様に1人の少女が朝食の乗ったお盆を置いた。
食堂はまだまだ席が空いているし、わざわざ嫌われ者のまほろの向かいに座る必要はない。
まほろは、味噌汁を啜りながら、目線だけ動かして向かいに座った少女を見た。
「向かいの席にお邪魔するな」
満面の笑みで座ってきた少女が、まほろにそう話しかけた。
「他にも席は空いてるけど?」
「あんたと話がしたいからに決まってるやん。ええやろ?」
「別にいいけど」
少女は元気な声で「おおきにな」と言ってご飯を食べ始めた。
「私は
「東雲まほろ」
「ほな、まほろちゃんやな。そんでな、私めっちゃまほろちゃんの事気になんねん」
笑顔で話すはやての言葉に、まほろは疑問を抱いた。
噂を聞いたなら、気になるよりも避けたいのではないのだろうか?
首を傾げたまほろを見て、はやては周りを気にして口元を片手で隠しながら、スッと顔を寄せてきた。
「あんな、私見てもてん。まほろちゃんが夜に空飛んでんの。それに、昨日先生達に呼び出されてたやろ? 私アレも見てしもてんやんか」
はやてが言うアレとは昨日の事であろう。
昨日、まほろは教員から呼び出された。
理由は、入学式の前にまほろの実力を確認しておきたいとの事であった。
呼び出された先は、生徒は誰もいない練習場で、教員が4人いた。
各ランクの学年主任の教員である。
まほろだけEクラスなわけだが、まほろ1人の為に新しく担任を用意するのは大変だ。
その為、どこかのクラスで合同授業を受ける事になるそうなのだが、まほろは卒業試験の成績と評価がチグハグなので、どのクラスに入れていいのか決まらなかったそうだ。
それでこうして学年主任が実際に見て決める事になったようである。
「それでは、私が相手をすると言う事で」
そう言って訓練所の試合スペースに上がったのは、Dクラスの学年主任であった。
「フン」と鼻息を吐いてまほろを見る目は、初等部の担任と同じ目である。
自分の嫌いな生徒を認めたくない人の目だ。
まほろは、それを見てため息を吐いて試合スペースに上がった。
「そんな物を持ったまま試合する気か?」
Dクラスの学年主任は、まほろの箒を見てそう聞いてきた。
口調は、注意でもする様な口調である。
「これが、私の武器なんで」
「フン、やはりお仕置きが必要だな」
Dクラスの学年主任は、そう言って試合の合図も無しに先に動き出した。
周りで見ている教員の声が聞こえてくるが、まほろは、特に気にする様子もなく、箒で試合スペースの石畳をコンと叩いた。
Dクラスの学年主任はまほろの右から攻撃を仕掛けて来ているので、そちら側の石畳に空を飛ぶ時と同じ魔法をかけて石畳を浮かせるようにひっくり返して石の壁を作った。
Dクラスの学年主任は、急に現れた石の壁に驚いた様だが、力自慢の忍でも石畳をの畳返し位はやる者はいる。
しかし、見下していた生徒が使った事で隙を作る事には成功した。
Dクラスの学年主任が次に使うはずだった足場を使った事で、段差ができてきちんとした踏ん張りも効かないだろう。
その隙をついて、卒業試験の時と同じ様に箒で殴り飛ばした。
勿論、箒と体を強化してある。
理論的には忍の基礎技術であるチャクラによる身体強化と同じだが、大気中の
今回は小学生相手の卒業試験ではなく、大人の教員の為、以前よりも込める魔素は多くする。
結果は、Dクラスの学年主任を壁に激突するまで吹き飛ばした。
「これでいい?」
まほろは箒を肩に担ぎ直し、見学していた教員達に質問する。
Dクラスの学年主任は壁に箒で殴られた衝撃か、壁に激突した衝撃で完全に伸びてしまっていた。
予想をしていなかった出来事に、唖然とする教員の中で、1人の教員が拍手をした。
「これは私のクラスの子達と一緒に見ましょう。他のクラスに入れたら、他のクラスの子の心を砕く結果になります」
拍手をしたのはAクラスの学年主任であった。
「しかし、Aクラスでも同じでは?」
「確かに。今のを見る限りAクラスでも敵いませんが、鼻の伸びた生徒達の矯正にはなります」
Aクラスの学年主任は、笑顔で話しているが、言ってる事はまほろを利用して自分の扱いにくい生徒の性根を矯正しようと言う事で、したたかな話である。
こうして、まほろはAクラスといっしょに授業を受ける事になったのだ。
その一部始終を、はやては見ていたようである。
「せやからな、私、まほろちゃんと友達になりたいと思ってん」
そう話すはやての顔は、ただ強いまほろに憧れる無邪気な笑顔であった。
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