第24話 明日世界が終わる夜に 3


深夜病室


オレの魂は月城彼方の身体へとはいった。


「……ふぅ」


数日間鳴らしたおかげで、ある程度歩けるようになっていた。


「……よし、行くか」


オレは病室を出た。


深夜の病院内は、当然真っ暗だった。


オレは出口へ向かう。


……


出口にたどり着いた。出口の扉は自動ドアだが、この時間はもちろん反応しない。

出口に着いたオレは、とんでもなく重大な事に気づいた。


ど、どうやって出るんやあああああああああああああああああああああああああ


……他の人に見られる訳にもいかねぇから、深夜以外できる時間はありえない。

だか、よく考えたら、身体を動かせるようにすることしか頭になく。その後のことをなんにも考えていなかったのだった。


「やばい、オレ死んだかも」


扉の前で手をこまねいていると……


「……助けてやろうか」


と、背後から謎の声が聞こえた。


「……!?誰だ」


誰か、いたのか!?まずい


「ほっほっほほっ。……ワシじゃよ」


「…………だれ?」


暗くてよく見えないが、どうやら老人のようだった。


「ほっほっほ、まぁお主がワシを知らんのも無理ないか。……じゃが、ワシは知っておる。お主、月城彼方じゃろ」

「いいっ!?な、なんでオレを」


というか、オレは死人だろ、それは皆しってるはずだが…… なんで平然と話しかけてくるんだこの人


「隠さんでもええ、お主がここ最近ここで夜な夜な歩いてることは知っておる。最初は幽霊かと思ったが。どうやら、本物みてぇじゃなあ……何があったかは知らぬがソレは間違いなかろう」


「……止めるんですか、オレを」


「止める?何を言っとる、手伝うといったじゃろ」


「え……」

「病院から出たいんじゃろう」

「え、えぇ……」

「なら、まかせい。ホイットな」


老人が扉に手を翳すと、扉が開いた。


「す、すげぇ。なんで……」

「ワシの能力、電気で一瞬だけ扉に電気を通した、それだけじゃ」


「ありがとう、おばあちゃん。……でも、なんでここまでしてくれる」


「どんな時でも。若人を導くのが、年長者の務めじゃ……。ほれ、はよいけい。…長くはもたんのじゃろう」

「……ありがとう、おばあちゃん。オレ、あなたの事一生忘れないよ」


そしてオレは全精力をかけて駆け出した。


……


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


走り出して3分ほど。オレの身体は既に持久走5kmを走り終えた直後のように疲れ切っていた。


「くそっ、ここまで……動かねぇとは……」


オレはもう走れなかった。足が棒のようだ。

予想以上に消耗が激しすぎる。早く、あいつのところへたどり着かなくては……。


そんな時、前方から歩いてくる男たちにぶつかってしまった。

「あっ」

「おい……なんか用かよてめぇは、オレは別にねーけどよー?」


まずい、こんな時に……

しかし、さらに背後から人が来る。


「ん……なにをしているね君たち」


警察だ!助かった……

……ん?いやまて。今警察なんかに捕まったら連行されるかもしれねぇ。そんな事になったら間違いなく終わりだ!


「や、やば……逃げ」

「待ちなさい!きみ!」


くっ万事休すかと思われたその時。

視界が白に包まれた。


!? この光は、まさか……


光が収まった時。男たちと警察は皆倒れていた。


そして、その場には、長い金髪のあの女。

金城まおが立っていた。


「お前……」


金城は相変わらずゴミを見るかのような目でオレを眺める。そして言った。


「はぁ……。高貴なるワタクシは、いよいよ霊能力を会得してしまったのかしら……」


「悪ぃな。生憎、オレは"本物"だ……」


「……そうね。私の幻想じゃあなければね」


その時、新しい1人の警察が運悪くここを通りかかってしまった。


「……!?おい、なんだこれは?きみたち!」


金城は警察の目の前に立ち塞がる。

「!!……こいつ、できる」

金城は一瞬で警察の強さを理解した。


「はぁ。聞きたいことは山ほどあったけど。どうやら、のんびり話してる時間も、なさそうね……。会いに行くんでしょう?……あの子に」

「ああ……」

「ここは私が、抑えて置くから、早く行きなさい」

「金城まお……、すまん。…ありがとう」


金城はオレに背を向けたまま言う。


「……月城彼方!」

「……なんだ」

「……また、いつか。会えるわよね」

「……ふっ。女王ともあろうお方が、なに弱気なこと言ってんだ。…ああ会えるさ。……その時まで。アンタがオレのこと、忘れてなきゃあな」

「……フッ、忘れるわけ、ないじゃない。アナタみたいな、ぶっ飛んだ人間……」


フッ はっ と2人は笑いあった。そして


「一瞬で消し炭にしてあげるわ」

「ふっ、警察学校を首席卒業した俺に勝てるとでも?」

「そんな称号(モノ)、女王の前ではなんの価値もない」

「ほざけ!!」


金城まおは戦闘を開始した。


……


彼方は前に進んだ。

もう限界に近い身体を引きずって。

自分の家を目指した。


「くっ……もう……」


もう、歩けない。そう思ったその時。

目の前に馴染みのある顔が現れたのだ。


「……うそ」


そこにいたのは、眠音ねむだった。


「夢だよね。……私は、夢を見てるんだよね」


「…出来れば。夢であってほしかったかな。…こんな"現実"は」


「う。う……!!…ほんとうに。…本当に彼方くんなの」

「あぁ…」


「どうして……」


その時、オレはクラっと倒れそうになる。


「ちょ、大丈夫」

「……行かなければ、あいつの、ところに……」

「…………」


ねむは、オレに背を向けた。

「乗って」

「……いいのか」

「行くんでしょ、ゆきちゃんのところへ」

「……悪ぃ」


……


思えば、ねむにも、何も言えないままだったなあ。

…ねむは、何も聞いてこなかった。こいつだって聞きたいことは山ほどあるだろうに。


「彼方くんくさい」

「うっ……仕方ないだろ、ずっと死んでたんだから…」

「ふふっなによ死んでたって…ふふっ……」


……


「……ふぅ。ねむ。やっぱり、落ち着くな。何故だろう、さっきまで死にそうだったのに今は不思議に落ち着く」

「そう」

「うん。……お前といると、自然と笑顔になれる。……オレ、お前と会えて、良かったよ」

「……え」

「また、いつか、お前と、なーんにも考えずに同じ空を眺められたらいいのにな」

「…………できるよ。きっと、また。…ほんの少し、ほんの少し間だけ、お別れするだけなんだから。…そうでしょ」

「……そうだな。まぁ、それまでしっかり生きるんだな。…寝すぎて留年なんてしやがったら上から笑ってやんぞ」

「前も言ったけど……私は今絶好調なんだよ?彼方くんがびっくりして落っこちてくるくらい、凄いとこ行ってやるわよ」

「ははは」

「ふふふ」


……


「ほら、ついたよ彼方くん」

「……は」


いかん、少し寝てしまってたようだ。


ねむに降ろされた、その場所は。


オレの家の目の前だった。


「ほら、早く行きなさい」

「あ、ああ」


オレが家に向かおうとした時


「彼方くん!」


とねむが言った。そして続けた。


「私も、楽しかったよ。……私も、彼方くんと会えて、良かった!…………またね」

「…………あぁ。またな」


そして、ねむは、去っていった。


そして、オレは家の中に入った。

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