第23話 明日世界が終わる夜に 2
ゆきの状態は良好ではなかった。
アイドルとして復帰を果たそうとした、あの日。
ゆきはマイクを落とした。
きっと、あの日の事故が 。トラウマになってしまっているんだ。
その日は金城まおの計らいによって助けられた。
そして、次の日も。声が出なくて落ち込むゆきの前に、神崎ひなが現れた。
神崎ひなとあった後のゆきは、落ち着きを取り戻していた。
「本当はわかってた。最初から、分かっていたよ。お兄ちゃんが生きてるはずないって」
……ゆきは、気づいていた。オレの言葉がまやかしだったことに。
……オレは。何をしているんだ?
誰よりもゆきの近くに居ながら。
誰よりもゆきのことを知りながら。
だのに、オレはゆきのために何をしてあげられたんだ……?
せっかく、こうして魂としてこの世にしがみついておいて。
あいつを元気にするどころか、嘘までついて、あいつを余計に辛い目に合わせている。
そして、オレの死が、今なおアイツから歌声と笑顔を奪っている。
……
結局オレは。ノノじゃないんだ。
どこまで言ってもオレは、月城彼方なんだ。
ノノの身体を借りたところで出来ることなんて、たかが知れていた。
だから、オレは……
月城彼方として、最後に成すべきことを、残った全てのエネルギーを使い。果たすことに決めたのだ。
……
月城彼方として、あいつに、最後の言葉を残す。
……
病室
あいつに、最後の言葉を残す。そのために
オレは、僅かに生命力の残ったこの魂で身体を動かせないかと試みた。
この特殊な能力なら死体のオレでも動かせるのではないかと思ったのだ。
そして……
「ぬおおおおおおおあああああ」
「……!!」
オレの試みは成功した。
最初の時は押し出されてしまったが。押し合いに勝つことで、身体の主導権を握ることが出来たのだ。
だが
「うっ」
限りなく生命力ゼロに近いこの魂で体を動かすことは並大抵では無かった。
頭痛、目眩、吐き気、身体の節々の痛み。人間の感じられるあらゆる不快を詰め込んだかのような衝撃がオレを襲った。
…それは、目を開けていることすら困難だった。手足のかんかくが無くなりそうだった。
だが、こんなことで挫けるわけにはいかない。
元より1度死んだ身である。
あの時の絶望に比べれば、動けるだけ、今は希望の満ちている。
「くっ、そ、がぁ、ぁぁ」
オレはなんとか、身体を慣らそうと、毎日深夜の病院内を少しずつ歩き回った。
「は、は…ゾンビって、こうやって、うまれるの。かな…」
昼はノノとして、夜は月城彼方として。
そんな日々が続いた。
そして
02月03日
オレの生命力はほぼ尽きかけていた。
「やるなら、今日しかない…」
オレは、覚悟を決めた。
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