第14話 ただようもの

初めに見えたのは暗い部屋


そこには女の子と大人の女性が立っていた。

ベッドの上に男の人が眠っている。


女の子は声にならないといった感じでただ男に身体に頭をうずめている。

女性は何も発することなくただ俯いていた。



その女の子の姿を見て、何故かボクはとても胸が痛いような苦しい気持ちになった。



どうても、彼女が気になったボクは、彼女について行くことにした。


彼女は家に帰ると、晩御飯の準備をし、何事もなかったように食べた。


「…………」


その間一言も口を開かなかった。


そして、食べ終わって

しばらくした後。


「……お兄ちゃん……」


彼女は枕に顔をうずめて、動かなかった。

涙を流しているわけでも。叫ぶわけでもなかった。

だが、彼女が底知れない深い悲しみの中にいる事だけは。はっきりわかった。

ボクの魂がそう感じた。


彼女をこんなにも悲しませる、お兄ちゃん。あいつが許せなかった。

そして、それよりも、なによりも。

なにもできない自分自身が許せなかった。


誰よりも近くに居るのに、誰よりもなにもできない。

ただ、漂うだけの自分は。あまりにも無力だった。


彼女の絶望と、無力感が、同時に自分に襲いかかってきた。


…………


それでも、ボクはそばに居るのを辞められなかった。それ以外出来ることがなかったから。

あれから数時間。


彼女は

ソファでそのまま眠りについた。


…………



1月15日


あれから、どれだけ経ったのだろう。

気付けはとっくに日は登っていた。

時計は1月15日の昼の12時を指していた。


その頃に彼女はようやく目を覚ました。


「……また学校、サボっちゃったな」


そう言って彼女は部屋に戻っていった。

部屋の中を見ると、彼女は、

ベッドに鬱向けに倒れていた。

その表情は見えなかった。


……


ボクは、あいつのいる病院へ向かった。


彼女を、ずっと悲しませている、あいつに、どにかしてガツンと言ってやりたかったのだ。

もちろん、ボクにあいつに話す方法はない。

でも、例えなんの意味もなくても。なにかしていないと気がすまなかったのだ。


あいつのいる病室へたどり着く。表札には「月城」と書かれていた。


病室は扉が閉まっていたけど。ぼくは扉をすり抜けられるので、なんの意味もなさなかった。

扉をすり抜けボクは室内へ入る。


あいつは未だに眠っていた。目を覚ます様子もない。

ボクはあいつになんて言ってやろうかと考えていると。

ふと背後になんらかの気配を感じた。


!?


病室のベッドに置かれた机、そこには。

クマのぬいぐるみが置かれていた。


「……!?」


そして、そのぬいぐるみを見た瞬間。

ボクの中に何が溢れ出した。


……


これは、彼女がずっと抱えて持っていたモノ。

ノノベアーのぬいぐるみ。彼女がそれをいつも大事に持っていることもそれが「ノノ」と呼ばれていることも知っていた。


そして、自分が。この魂が何者なのかも。


「………………」

ノノは、ただじっと眼前を見ている。

なにも言うことなく。

でも、なんとなく。呼ばれているような気がした。ノノに。


ノノに近づく。その瞬間、世界に光が溢れ出す。


……そして。魂とぬいぐるみはひとつになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る