第13話 それでも進む時の針2
01月17日
翼プロダクション事務所
「紗雪、さん……、嘘だよね」
「嘘じゃないわ。私はこの事務所を辞める」
月城ゆきとそのマネージャー佐藤紗雪が事務所で話していた。
「な、んで……どうして」
「……彼方くんが、ああなったのは、全て私の責任。会場のチェックが甘かった、あらゆる事象への想定が甘かった。そして彼をあそこへ向かわせたものも、私。…私が殺したのも同然なのよ。あなたはそんな私を許せるの」
「そんなこと、あんなの誰も予想出来ません、あれは、どうしようもなかった事故です…それに、紗雪さんがああしなかったら、私が死んでました」
「それでも、私はっ…」
激昂するマネージャーに、ゆきは抱きついた。
「ゆ、き」
「もうやめて、これ以上自分を責めないで」
叫ぶゆきに、マネージャーは冷静さを取り戻す。
「う……」
「紗雪さんは私を見つけてくれた人。あなたがいなければ今の私はなかった。あなたも、私の大切な人なの。……これ以上、私の前から居なくならないで……」
「……ゆき。……」
「あの時のことは、お兄ちゃんが無勝手に理言ってやらせたんでしょ。そういう人だもん。それに、お兄ちゃんもこんな事望んでないよ」
「……ごめんなさい、私、どうかしてたわ」
「紗雪さんは色々背負い過ぎだよ、少し落ち着いて休んだ方がいいよ。仕事は私がやっておくから」
「……いいの?ゆき」
「うん。何かやってないと落ち着かなくて」
そういうゆきにマネージャーは少し考えていった。
「ふぅ。わかったわ、しばはくはあなたに任せてみる。何かあったらすぐ連絡するのよ」
「うん。ありがとう」
そして、マネージャーは事務所を出ていった。
ゆきはそれから、数時間マネージャーから託された事務業務をひたすらこなした。
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01月17日 夜
ある病院の病室にて
事務所の仕事からの帰りに、ゆきは病院へ寄った。
向かった先の病室には男が眠っていた。
月城ゆきは、ベッドで眠りについている男を見る。
「お兄ちゃん」
月城彼方、ゆきの兄。
コンサート中の事故からゆきを救い、そのまま意識不明となったまま目覚めないでいた。
「どうして…………どうして…………」
「お兄ちゃん……約束したのに……、ずっと……。ずっと、傍で見てくれるって…… 」
涙は、なかった。
既に泣き尽くした後なのか、涙も出ないほど現状を受け入れられないのか。
ゆきはひたすらに頭を俯けたまま、
悲しみにくれた。
その両腕でノノのぬいぐるみを抱えながら。
しかし、ゆきと、眠りについている彼方の2人しかいない静かな部屋から。
突如声がした。
「…………て」
「……?」
「元気……出して……」
「え?……だれ?」
「ボク……だよ」
その声は、ゆきの持つぬいぐるみから発せられているようだった。
「あなた…なの、ノノ…?」
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