第2章
第12話 それでも進む時の針
…………
強く、強くなりたかった。
最初は、ただそれだけの気持ちだった。
…… 雪が舞降る街の外れ。
私はひとり、うたを歌う。
あの人のように、強くなりたくて。
「…はぁ、はぁ」
パチパチパチパチパチ
いつものように誰も見ていないと思っていたのに。今日は違った。
その人は私に言った
「……あなた。アイドルに興味は無い?」
「……え」
舞降る雪の中、そこにいるは私とあなただけ。
…それが、私とマネージャーの初めての出会いだった。
………………
学校の屋上で、眠音ねむは、空を見上げる。
そこには、なにもなく、ただ青いだけの空が広がっている。
「………………」
なにを考えるでもなく、ただひたするに空を見ている。
そんな日々がもう1週間も続いていた。
彼女の友人 月城彼方が亡くなったという、その報せを受けて。彼女はずっと、心ここに在らずどいえる状態だった。
「ねむ……」
「……ゆず」
彼女に話しかけるのは友人の三森ゆず。
ゆずには、月城彼方の事はねむの話で知っているが。面識自体はなかった。
「……」
ゆずはねむの顔を見る。ねむ酷いクマが出来ていた。
何よりも睡眠が大好きなねむが、眠れることも無く日々を過ごしている証拠。ゆずは、ねむの顔にクマができることを人生で初めて見た。それだけに、ソレは辛いことだったのだとわかってしまう。
ねむは口を開いた。
「私ね…眠っていれば、どんな時でも幸せになれるって思ってた。でも、本当にしんどい時って。眠ることすら、出来ないんだね」
「……ねむ」
「彼方くんのこと、私いつも自分勝手に振り回してばかりで。私は楽しかったけど、彼方くんは。どうだったのかなって。迷惑じゃなかったかなって……。それを知ることが出来ないままだったのが。とてもつらいの」
「……迷惑なわけ、ないじゃない。本当に嫌なら、何度も付き合ったりしないわよ」
それは、長年ねむと付き合ってきた三森ゆずの本心だった。
「……だったら、いいなあ」
「ねむ……」
「ごめんね、ゆず。私……」
「いいよ、今は…ちゃんと、吐き出して。いくらでも聞いてあげるから」
「ありがとう…」
……
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