第11.5話 女王




「どこだァ、どこにいやがるぁ!!」


「……くっ!」


俺は、

大男3人に追われていた。

真っ黒なスーツを身にまとった、闇のような3人に。


……


ほんの出来心だった。

ほんの出来心でやってみたんだ。それを。


「闇バイト」


……別にお金に困っているわけではない。


ただ、ダメだダメだと言われたらつい見てみたくなるのが人間の性ってやつで。

怖いもの見たさってやつだ。


そこではどんな事が行われているのか、見てみたかったというだけの理由。それだけで「闇バイト」に手を出した。


やる事はごくシンプルだった。


指定の場所に向かい、物を受け取り、ソレをまた指定の場所へいき。その地点に受け取ったものを置く。


ただそれだけだった。


ソレは何事もなく進み、終わった。


あっさりと終わったので拍子抜けだった。


それから1週間……


急に変な人間が俺を付けているような気がする時が増えたのだ。


そして、今に至る。


そいつら何者なのかもわからない。


ただわかるのは。

ほぼ確実に闇バイトに関連する事だと言うこと。

そして捕まったらろくな事にならんということだ。


でも。なんで物を運んだだけの俺が、こんな奴らに追われなきゃならんのだ??


いつらは実はクライアントの敵組織で、実は運んでたのは爆弾で。俺のせいで組織が壊滅したとかでもいうのか……??


とにかくわからんが、俺は追われていた。



……あっ!


どさ


つまづいてこけた。

そして。


「見つけました!アニキ!!」

「おう、ようやった」


3人組が近づいてくる。


くそみつかった……。



「ふん、まさか犯人がこんなネズミだとはな……。なんにせよ、我々に楯突いた罪は許されないことだお前には消えてもらうぞ」


リーダーらしき男の手から黒紫色の禍々しい色の巨大なエネルギー球体が放たれる……。


まずい、あんなもの食らったらこの体はひとたまりもないっ!


「死ね」

「……うぅあああ」


こんなところで……俺は死ぬのか……?


そう思った瞬間。目の前が真っ白な光に包まれた


!?


目を開くと。


そこには、美しい黄金の髪を持つ女性が、その手に持つ剣で、闇のエネルギー体を縦に一刀両断していた。


「え」


俺はこの人に見覚えがあった。

この人は…… 金城まお。


この前友人に連れられて見に行った、アイドルという存在…。


でも、なんでこの人が今この場に……



「な、なんだァてめえはぁ!?」


金城まおの登場に男たちは困惑する。


「フンっ……ハエ如きに名乗る名はないわ、黙りなさい」


そう言った金城の身体が眩く光る。


「うぉ眩し」


それは、目も開けていられないほどの輝き。


そして、光が収まり目が慣れて、景色が見えた。

しかし、その時は既に。

「え」


目を開くと既に、3人組は金城の目の前に力尽き倒れていた。


「う、うぅ」

「やられた……」

「まじかよ……、こんな女ひとりに……」


倒れ伏す男たちに金城はいった。


「さぁ、頭領のところへ案内しなさい」



……


「……この先を右だ…」

「くそ」


……


ロープで縛られた3人組を俺は引きずりながら歩いていた。

前には、金城まおが、歩いていた。


……

「それにしても、あなた。どうして奴らに狙われているのかしら…。あいつらは「裏」の者達よ?」

「…………」

「まぁ。言いたくないなら言わなくてもいいわ。 ……ふっ。どちらにせよ、そんな必要もなくなるわ。……どうせ、全て終わるから」


……


町外れの廃工場。

ここが奴らの本拠地らしい。


「ん?なんだ、お前は……」


中に入ると、頭領と思わしき男がいた。


その男の後方には実に100人ほどの人間がいた。恐らく皆こいつの下っ端……


「失礼、1度噂のあなたの顔を拝んでみたくってね、挨拶に来たのよ。お土産ももちろんあるわ」


「…確かに俺は、こいつの捕獲を命じた。だが、ヤミたちはどーした」

「あぁ、こいつらのこと?」


ドサッ!と金城はロープで縛られた3人を投げ渡した。


「……。貴様、覚悟は出来てるんだろうな」

「あなたこそ、夜逃げの準備は終わったかしら」


「行けえ!!!」

頭領の言葉に100人の下っ端が動き出す。しかし。


「"ひれ伏しなさい"」


金城のその言葉で、下っ端は全員、地面に倒れた。

「なっ、にっ」


なんだこれ……。金城の能力……?威圧感だけで、人を圧倒してやがる…。


下っ端が倒れてゆく中、頭領だけはかろうじて、立っていた。


「ふん……頭領は流石に、多少はできるようね」

「くっ……きさ、まぁ……!」


フッ、と

金城の威圧感が消えた。どうやら長時間使える技ではないらしい。


その瞬間、頭領は俺に向かって走る。


「……!?」

そして

男はオレを腕で身体を締め付ける。そして左手から拳銃を取り出し俺の頭に向ける。

「おい!こいつがどうなってもええんか!?」

「なっ」


まずい、俺、人質になっちまった。


しかし、その瞬間。金城から閃光が放たれた。

辺りは真っ白になる。

光はすぐ収まり元の景色に戻る。


「目くらましか。そんな、小細工は通用せんぞ」


拳銃を俺の頭に突きつけながら男は言う。

しかし、そんな俺を見ても金城まおは冷静だった。


「ああダメね、全然だめだわ」

「!?」

「あなた。耐久はそこそこだけど。遅い。遅すぎるわ」

「あ?」


そして

金城は叫んだ。


「下僕よ。あなたも、ワタクシの下僕なら、「気高さ」を持ちなさい!そんな奴らに負けないような!」


「ああ、何言ってんだァ女ぁ!!打つぞぉ!」

「うるさいわね。打てるものなら撃ちなさい。この私が呑気に何もせず、あなた達にソレを握らせるとお思い?」

「……はっ!?」


その時、男の持つ拳銃の半身はぬるりと滑り、拳銃の半分が、するりと地面に落ちた。


「な、なにいイイぃぃ!!?」

「……」


恐らく、さっきの瞬間の閃光。あの時金城は瞬時に俺たちに近づいて、拳銃の真ん中"だけ"を切り裂いたのだ。

早さもさることながら。その攻撃の正確性も寒気がするほど高い。


頭領は半分になった拳銃を見て混乱している。


「……っ!!」

その隙に俺は奴に肘打ちをかました。


「ぐっ。貴様ァ」


男が俺に向かってくる。


俺は男と、格闘戦となる


あいつに、金城1人なあそこまでさせておいて、このまま黙ってられんだろ!!


男のパンチを交わし、俺のパンチが男の頭に直撃した。


「がっ」


どさっと、男はたおれた。



「ふぅ」

「フン……下僕にしては上出来ね」


「あそこまで言われてなにも出来なかったらおとこじゃないすよ」


「ふっ。いい「気高さ」だったわ。……そう。重要なのは勝つことでは無い。そうあろうとする意志よ。…気高くあろうとする意識さえあれば。どんなものにも立ち向かえる。」


「……」


俺はずっと、金城に疑問だったことを聞いた。


「あの、なんでここまでしてくれるんすか、ただの通りすがり似過ぎない俺に」

「……あなた、この前来てたわよね。私のステージに」

「え、えぇまぁ……、でも、それだけで?」


確かに来ていだが……、ほんの1度だけである。

というか、1度しか来てないのにオレのこと覚えていたのか?


「それなら、あなたは私の下僕よ。女王が下僕を助けるのにそれ以上の理由が必要?」

「え……」


その時、男が再び立ち上がった。そして叫ぶ。


「来い、白龍!!」


瞬間。男の前に巨大な白い龍が現れた。

召喚獣、これが奴の能力か……!


「まさか、これを使うはめになるとは……だが、ここまで来たらもう容赦はしねえ。てめえら骨も残らねえと思えっ!!」


白龍は炎を吐いた。

金城は白い龍の炎のブレスを「光の壁」で防いだ。


「いぃ?!」

「ビビってんじゃあないわよ、こんなモノに」

「いや、そんなむちゃな」


「いい。どんな時でも、「気高さ」だけは常に持っていなさい。私の下僕ならね」

「……」

「……ふっ。あなた達は、何も臆することなく、堂々と、私の後ろを歩いていればいいのよ。……なぜなら。私が……」


ブレスがやんだ瞬間。

白龍に向かい走る。金城は。

その手に持つ剣の剣先が光り、伸びた光が刀身となり。剣は何倍もの長さになった。

そして、その剣で、白龍を真正面から切り裂いた。

白龍は真っ二つとなり

粉となって消えた。


……


金城まおは、元の長さに戻った剣を地面に突き刺し、俺に背中を見せたまま言った。


「この私がいる限り。あなた達は決して負けない」


……


金城まお


初めて見た時の印象は、なんて高圧的なやつなのだろう。だった

だが、違ったんだ。

ただ、無意味に高圧なんじゃない。

こいつの、この人の。その溢れる自信は。

強がりじゃない。「本物」の強さに裏付けされたものだったんだ。


これが、金城まおという国の「女王」……。

そして、これが「アイドル」…。


……


「まお様!ご無事ですか」


廃工場の中に黒いスーツとサングラスを掛けた大男が入ってきた。


「あぁ、S39(スザク)。こんなところになんの用?」

「いや、それはこっちのセリフですって。騒ぎを聞きつけて掛けてみれば……。はぁ、また。やったんですね」

「騒ぎってほどじゃあないわ。ほんの1つ組織を破壊しただけよ」

「はぁ。まったくもう、後始末するこっちの身にもなって下さいよ……」


「あなたがいるから、ここまで思い切り出来るのよ。それに、いつも手伝っているじゃない」

「さすがにこうも次々されるも手が周りませんって…。おや、そのお方は」


……



こうして、俺の不思議な1日は終わりを告げた。


後日知ったことだが。俺を襲った組織はもちろんのこと、俺のクライアントだった組織も。あの日の数日後壊滅したらしい。

その理由は、多分俺だけが知っている…。


それからというもの。俺はアイドル「金城まお」のステージに行く日が増えたのだった。



@@@@@@@@@



ある日。金城まおのステージが終わった後。



ステージ袖


金城まおはケータイでローカルニュースをチェックしながら、今日も街の平和であることを確認していた。


「……ふ」


「今日も良いステージでした」


金城まおの傍にいるのはS39(スザク)という男

全身黒いスーツでサングラスをかけている。

身長190を超える大男。

彼は金城まおのマネージャーである。


「当然よ」


金城まおとS39はいつものようにステージ後の何気ない時間を過ごしていた。

しかし、その時。


PLLLLLLLL

S39の携帯がなった。


「すみません、失礼します」

「……」


「……翼プロのマネージャーがなんの用ですか。こちらには話すことなどなにも……え」


がちゃん


それは携帯が落ちた音。S39が携帯を落としたのだ。


「……?S39?」


あのS39が携帯を落とすなんて基本的なミスを…?

と金城まおは訝しんだ。


S39は携帯を広い、通話を終わらせた。


「…………」

s39はずっと黙っている。

金城まおは、そんなS39に言った。


「どうしたの、何かあったの」


……S39は、重い口をひらいた。

それは、金城まおが夢にも思わなかった言葉だった。


「……落ち着いて。落ち着いて聞いてください。…………あの、とても申し上げにくいのですが。あのお方が……。「月城彼方」様が、お亡くなりになられたと……」


……………………


「……………………は?」

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