第1話 妹

学校も終わり。家に帰ってきた。


「ただいま〜。って誰も居んか」


妹である月城ゆきは、アイドルというのをやっているらしくいつも忙しそうにしていて家にはあまりいない。

最近は特に忙しいのか、ほとんど家にも帰っていないようだった。




適当にテレビを見ながら晩ごはんの準備をする

といっても、スーパーで適当に買った惣菜の野菜とカツを用意するだけだが。

妹のゆきと違い、オレは料理が出来るわけじゃあない。だからゆきがいない時はいつもこれなのだ。


ガチャん


家の扉が空いた音がする。

玄関に行くと。約2週間ぶりに見る妹の姿があった。

月城ゆき。オレの妹である。

オレより二つ下の高校1年生である。


「あ、お兄ちゃんただいま〜」

「ゆき、お前どこに言っていたんだ今まで…」

「えへへ、まぁ、色々あってね。話すと長くなりそうだから、今度ゆっくりおしえてあげるね。」

「お、おい」


そういい妹は部屋に戻った。


特になにか隠してる風でもないようだが、年頃の女の子がこうも家を空けていると兄としては少々心配になってしまう。


……


「あーお兄ちゃん、またソレ食べてるの?」

「なんだよ、悪いか」

「もうっ、しっかり栄養考えて食べなきゃあだめだよ〜。…もしかして、私がいない間ずっとこうだったの?」

「あぁ、オレはこれがでいーんだ」

「もう。明日からはまた私がつくってあげるから、ちゃんと食べてね」

「お前は、仕事で忙しいんじゃないか?えっとなんだっけ。アイドルだっけか。だから無理して作ることはないぞ」

「私がやりたいからやってるんだよっ。だからお兄ちゃんは、黙って食べられてくださーい!」

「ふぅ、分かったよ。ありがとな」

「えへへ」


まぁ、俺としては食のことは特に興味もないんだが、ゆきの作るご飯は結構上手いから、断る理由もないのだった。


「それにしても、ゆき、お前最近何してたんだ、家にも帰らないで…」

「うーん、そらには少々込み入ったわけがありましでですね……。簡単に言うと。私は世界を救う旅をしていたのです」

「…………」

また、それか

「なんだ、流行っているのか、ソレ?ねむも同じこと言ってたな」

「え、お兄ちゃんねむちゃんに話聞いたの?…ねむちゃんは一緒に旅した仲間だよっ」

そう言っているゆきの表情はとても明るいものだった。

嘘を言っているようにも見えなかった。

「はぁ、そういうことにしとくよ。まぁなんでもいいさ。妙なことに首突っ込んでるんでもなけりゃあな」

「お兄ちゃん、信じてないでしょう?私結構頑張ったんだよー、ぶーぶー」

その後も、ゆきから、よく分からない世界を救う旅の話を延々と聞かされたのだった…。


……


「ごちそうさまでした」

晩ごはんを食べ終えた妹が席を立つ。

「洗い物はオレがやっておくよ。疲れてるだろ」

「うん、ありがと」

そういい妹は部屋に戻るかと思いきや。

なにやら妹はオレの前に立ち、なにやらモジモジとしている。

そして言った

「あ、あの、お兄ちゃん……」

「……なんだ?」


「ええ、とその……。ですね……」

妹は何かを言い出そうとしているが、じれったくなかなか言い出せないでいる。

こいつにしては珍しい

「や、やっぱり。いいや。今のは忘れて〜」

「はぁ」

「それじゃあおやすみお兄ちゃんまた明日〜」


言葉の意味もわからぬままどたどたとゆきは、部屋に帰った言ってしまった。

……はぁ。

急に長期間家を空けたり、いきなりよく分からぬことを言い出したし。

年頃の女の子は、思ってる以上に複雑な存在なのかもな…。





・・・・・・・・・・・・・・





翌日


昼休み いつものように屋上に行くと


眠音ねむと、そして、妹である月城ゆきが一緒にいた。

「あ、お兄ちゃん」

「彼方くん、おはよ〜」


「あぁ、おはよう…って、なんでお前ら一緒にいるんだ?いつの間にそんな仲良くなっていたんだ」


そう言うと、ねむは呆れたような顔で言った

「もう〜、昨日言ったでしょう。ゆきちゃんとは、一緒に世界を救った仲だってさー。」


「あぁそういやぁそんなこと言ってたな…、というか、その設定まだ続いてるのか」

「もぅ、やっぱり信じてなーい」

「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。せっかくだから、お兄ちゃんも一緒にお昼食べよっ」


そんなこんなで、ねむとゆきと一緒に昼を食べることになった。


「ねぇねえゆきちゃん、アイドルのお仕事は順調?」

「うん。みんなのおかげでね。それにね、最近凄くいいお仕事を貰ったんだよ。」

「え〜なになに〜」

「なんとですね、あの「プリミラ」の主題歌を私が担当することになったのですよー!!」

「えー!?プリミラってあの、「プリンセスミラージュ」!?もう5年もシリーズが続いてる女の子に大人気の超人気アニメじゃない!すごいじゃないゆきちゃん!」

「えへへ、ありがとう。もうすぐ放送開始されるから、ねむちゃんも見てくれたら嬉しいな」

「うんうんうん、見るよ絶対見る。みるみる〜!」


ゆきとねむは、なんだかよくんからん話で盛り上がっている。

そう、よくわからんのだ。オレは女の子向けのアニメとか見たこともないしね……。


……


お昼を食べ終わり。

オレはゆきとねむと、なんてことない話をたくさんした。

ゆきの今ハマっているコスメの事だったり、ねむの一緒に暮らしているという猫たちの話だったり。あの雲がドーナツみたいで美味しそうだなあとかだったり……

そんな、なんてことない話。


思えば、眠音ねむとまともに話したのは初めてなんじゃないかと思う(いつも寝てるしな…)

話してみると案外良い奴なんじゃあないかと思う。

なんというか、落ち着くんだよな。一緒にいると。

…そんなどうでもいいことを考えていたら、意識が遠くなっていってしまった……


……


すぅ……すぅ……。


「……、お兄ちゃんも、ねむちゃんも、2人とも眠っちゃった…」

「うふふ。2人とも背中合わせに寝ていてかわいいんだから…。」






・・・・・・・・・・・・






ある日の朝




リビングで、ゆきと朝食を食べている


「お兄ちゃんってなんでいつも朝はパンなの?」

「なんでって言われてもな…。朝はパンを食べるのが昔っからの習慣みたいなもんだし…。そういうゆきは、ご飯なんだよなあ」

「うん。私パンって全然たべないんだよねえ。兄妹なのに、朝食が全然違うなんて不思議。…あ、そうだ、せっかくだから。今度交換してみようよ!」

「交換って、朝食をか?」

「うん、いつもと違う朝食を食べるのは、新鮮で楽しそうじゃない?」

「そうか?ま、気が向いたら交換してやるよ」

などとなんてことない会話を繰り広げていると。

ゆきは、時計を見てあ!っと何かに気づいたように言い。リモコンでテレビを付けた

「何か見るのか?」

「うん!もうすぐ始まるんだよ〜♪」


そうしてテレビを見ていると

テレビから、女児向けのアニメが流れはじめた。

地球を守るために、夜空の星々から力をもらい、女の子が変身して、悪い奴らと戦いを繰り広げるという内容だ。


遥かなる大地

紡がれる奇跡

流星の絆〜♪


アニメのopが流れている。

なんだか聞き覚えのあるようなないような歌声だな、と思いながら映像を見る。

しかし、そこに現れた文字列にオレは驚いたのだ。


「流星の絆」

歌:月城ゆき


ぶふっ!

オレは口の中の茶を吹き出した


「お兄ちゃん汚ーい」

「い、いやお前…これ…」

「え?」

「これ歌ってるの、ゆきなのか!?」

「ふふふっ、そうだよ。今気づいたの?」

と、なにやら嬉しそうに顔でゆきは答える

「いや、そうだよって…、なんで?」

「もう、お兄ちゃん忘れたの?こう見えても、私は「アイドル」なんだよー?」

「はぁ…よく分からないがそういうものなのか…」


それにしても

そうか……、この前ねむと話していたのはこれのことだったのか。


「ゆき…」

「…なに?」

「お前…、凄いじゃあないか」

「……ありがとう、お兄ちゃん」

それは、何気なく自然に発した言葉だったが。

ゆきはその言葉がとても嬉しかったのか、アニメを見ながらはしゃいでいた。

結局、オレもゆきと一緒にアニメを見ることになったのだった。



……


その日の夜


家に帰ってきたゆきは

帰ってくるなり、オレの元にやって来た。


「……ん?ゆき、どうした?」


ゆきはなにやら緊張したような面持ちで言った。


「お兄ちゃん。私のお願い、聞いてくれないかな…?」

「なにいきなりそんな改まって聞いてるんだ。無理のない範囲ならなんだって聞いてやるさ。お前の頼みならな」


ゆきは前のようにまた、モジモジしながら言葉を選んでいるようだった

「で、なんだ頼みは」


「あ、ありがとうお兄ちゃん。…た、頼みと言うのわで、すね……」


「あ、あの……私と、」


「?」


「わ、私と一緒に、「遊園地デート」し、してください!!!!」


「…はぃ?」


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