第6話 鈴の証明①

「やってみろよ小娘。お前の命がけの証明を私に信じさせてみろ!」


 目の前の美少女エルフが吼え、好戦的で嬉しそうな笑みを浮かべて鈴の前に杖を突きつける。

 対する鈴もラウナの好戦的な笑みに怯みつつも、負けないように笑みを浮かべた。

(どうしよ……気を引くために口走っちゃったけど……どーしよー!?)

 その内心はすごく焦っていたが。

 異世界から来たことの証明を出来なければ、今度こそ殺される。鈴の額に汗が流れ地面に落ちた。その時だった。

(い、いやアレがある! アズサっちが持ってる! アレなら多分いける!)

 電流のような閃きが鈴の頭に奔った。


「あ、アズサっち……じゃないえっと……この子の! スカートのポケットの中を見て!」

 鈴が示したのは梓のスカートのポケットの中にあるスマホだった。現代の技術の結晶、この世界の技術がどんなものなのかは知らないがスマホが一般普及してるとは考えにくいと踏んだ鈴は必死な思いで伝える。

 美少女エルフが寝ている梓のスカートをあさり、スマホを取り出した。


「ふ~ん……奇妙な板切れだな。これがどうした?」

「それが私たちが異世界から来た一番の証明だと思う!」

「この板切れが? 確かに魔道具の類ではなさそうだが……」


 いけそう。

 そんな思いが鈴の脳裏に浮かぶ。


「それはスマホって言って、私たちの世界では一般的に出回っているもので……それで写真を撮ったり、メッセージを送ったり、ゲームをしたりえっと……あ、お金を払ったりできるの!」

「色々できるんだな」

「そう! 私たちの世界ではそれ一つで色んなことができるんだよ! 色んな機種があってね、例えb……

「で、それらをどう証明するんだ?」

「……!」


 鈴の言葉を遮って美少女エルフが問う。その迫力に思わず鈴は怯んだ。ただ鈴に問うただけ、それだけで脳裏に浮かんでいた思いが吹き飛ぶ。

(油断するな私! 最後までちゃんとするんだ!)

 深呼吸一つ。鈴は気合を入れなおす。


「い、今から証明する! そのスマホをこっちに渡して!」

「断る」


 美少女エルフの予想外の言葉に鈴が固まる。証明すると言ったのに何故。


「な、なんで……」

「お前はこのスマホとかいう板切れで色々できると言ったな」

「う、うん」

「じゃあこのスマホでこの場から逃げる……ということもできるんじゃないか?」


 美少女エルフの指摘に鈴は再び固まる。鈴にとっては頓珍漢な指摘、けれども美少女エルフは至って真剣な表情だ。鈴は大きく首を振りながら否定する。


「そんなことできるわけないじゃん!」

「本当に? まあ、このスマホというものにもできることできないことがはっきりとしているんだろうけど……少なくとも私はその言葉を信用できない。見たところ魔術的な要素は少しもないが……その代わりか凄まじく小さく複雑な機構だ。世界を見て回ったけどこんなものは初めて見た」

「そ、それなら」

「だからこそ、これが未知の古代遺物アーティファクトかもしれない可能性がある」

「あ、古代遺物アーティファクト?」

「お前たちがこのスマホなる古代遺物アーティファクトを使って、もしくは使った際何らかの事故で私の異空間に入った……と私は予想している。入ったのなら出ることも可能だろ?」

「訳が分からないよ……」

「お前たちを万が一にでも逃がすわけにはいかない。これを操作して入った可能性がある以上、お前たちには触れさせられないな」

「そんな!?」


 美少女エルフは驚愕している鈴を突き付けてる杖でつつきながら、滑稽なもの見たような笑みを浮かべる。

 その笑みを見て鈴は少しだけイラッとした。確かに主導権を握っているのは美少女エルフだが……笑われるのは大嫌いだ。


「どうした? 証明は終わりか? そんなものか?」

「……まさか! ここから大逆転だよ!」


 鈴は美少女エルフの目を真っ直ぐ見て笑みを浮かべる。

 逆境こそ立ち向かい、笑って切り抜けるのが鈴の信条だ。見上げる鈴の目にははっきりと希望の光が見えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人で異世界 @carunyukke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ