第2話 目覚め
梓が目を開くとそこは廃墟だった。
薄暗い四角い空間には何もなく、そこが何の空間だったのかも分からない。窓がなく、さらには床もない野ざらしの地面。奥の方を見ると一部崩落している天井と扉があっただろう場所から光が差し込んでいる。
ふと隣を見ると倒れている鈴がいて梓は急いで鈴を起こそうとする。
「鈴! 鈴起きて! ねえ! 起きてってば!! ……脈は!? ……ある、から、きっと生きてる……はず……ねえ! 起きて! 鈴!!」
梓は鈴を何度も揺さぶって起こそうとするが鈴は一向に起きる気配がない。
「ねえ! 起きて! 私……鈴がいないと私は……ねえっ!! 起きてよ!! 何で……起きないの……」
次第に梓の目には涙が溜まる。幼い頃からずっと一緒にいた鈴に梓は並々ならぬ感情を抱いていた。
人と関わることに怯えていた幼い梓に『一緒に遊ぼ』と手を差し伸べてくれた鈴。
辛い時も嬉しい時も鈴と一緒だった。
そんな鈴と何かよく分からない魔法陣に巻き込まれて気付けば見知らぬ場所で、隣で鈴が倒れていて目を覚まさない。梓がパニックになるのにそれほど時間はかからなかった。
「鈴! 鈴!! 鈴!!! 起きてよっ!!!!」
「……んっ……あ、あずさ……ちゃん?」
「……! 鈴? 良かった……ちゃんと目を覚ました……大丈夫? 私のこと分かる?」
「あ、梓ちゃん? 何でそんな泣いて……うん、大丈夫だよ梓ちゃん。ほら、私は元気!」
どれくらいたっただろうか、鈴が目を覚ました。
どこかでぶつけたのか鈴の頭には少しだけ痛みがあったがそんなこと目の前で泣いている幼馴染に比べたら屁でもないことだった。鈴は起き上がって笑顔で梓に大丈夫だよ伝える。
その言葉に安心したのか、泣き止みかけていた梓がさらに泣き出して、鈴はただただ狼狽するしかなかった。
しばらくして泣き止んだ梓は恥ずかしそうに鈴に話を切り出す。
「……それじゃ、とりあえずこれからについて話し合うわよ鈴」
「今更そんなキリっとした顔で言われてもなぁ……」
「さ、さっきのことは忘れてよ……というかほんとに心配だったんだから……」
「はいはい忘れないよ。すぐ目を覚まさなくてごめんね。それで? とりあえず外に出るしかないでしょこの状況」
「…………そうね。ここがどこか分からないかつ私たちの鞄もない以上、周囲の確認と食料確保が第一……というか私の予想が当たってたらもしかするとここって……」
「……地球じゃないってこと? アズサっちがたまに読んでた異世界転生系のラノベみたいなことが起きてるってことになるけど……」
「今回の場合は多分異世界転移の方だと思うけどね……どっちにしろ進むしかないわ」
二人の脳裏に浮かぶのは図書室に現れた巨大な魔法陣。ラノベのようなことが現実に起きるとは思えないが、梓のスカートのポケットに入っていたスマホも圏外を示していて予感が現実味を帯びる。
意を決して二人は天井と壁だけの石造りの掘っ立て小屋から出ることにした。
「これは……すごいわね」
「うわぁ……!」
小屋から出て二人の目に飛び込んできたのは広大な緑の草原と遠目に見える連なる山々だった。見渡す限りの草原に驚くくらい澄んだ空気、あまりの雄大さに二人して感動してしまうほどのものだった。
そして何より二人の目を引いたのは……
「……地球じゃ……ないわね」
「地球には月は一つしかないし……あんな大きくないからね……」
空に浮かぶ月というにはあまりにも大きく、まだ陽が真上で輝いているのに白く輝く二つの天体だった。
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