第4話 犬派VS猫派

 テーブル席で特大パフェを一緒に食べている俺と藤咲さんの元に、諸星もろほししずくさんと滝名たきな芽依めいさんがやって来た。


諸星さんは藤咲さんの隣に、滝奈さんは俺の隣に座っている状況だ。


女子大生に囲まれるなんて、嬉しいような気まずいような…。複雑な気分だ。



 「2人はどこで会ったの?」

諸星さんが俺と藤咲さんの顔を見る。


「昨日、カレーの大食いチャレンジをした時だよ。俺が申し込む時に藤咲さんが駆け込んできたんだ」


「ふ~ん。じゃあ、さたけんも結構食べるんだね」


「フードファイターに比べたら全然だがな。一般人よりは上だと思うけど」


「今度3人で何かの大食いチャレンジやってみようよ。まどか・さたけん良い?」


「もちろん」


「あれ? 滝名さんは入れないのか?」

彼女は大食いサークルとは関係ない?


「たきなんは私が強引に誘っただけだから大食いじゃないよ」


「強引に誘った自覚はあるんだ」

藤咲さんがつぶやく。


「一応ね。サークル棟あたりに1人でいれば声かけるでしょ? 3年の藤代ふじしろ先輩は幽霊だし、私とまどかだけじゃ寂しいじゃん」


なるほど。大食いサークルは藤咲さん・諸星さん・滝名さんの3人で活動してるのか。藤代さんは籍だけある感じかな?


何でそうなったかが気になるが、別に良いや。藤咲さん達すらめったに会わなそうだし、俺が知ったところでな…。



 諸星さんに初めて会ってから、彼女のグレーTシャツにプリントされているデフォルメ調の犬が気になっている。あれは藤咲さんの猫と同じ感じなのだ。


ペアルックの一種だったりする? 確かめてみるか。


「なぁ諸星さん。そのTシャツの犬なんだけど…」


「これ? 結構可愛くない?」


反応を見た限り、お気に入りか。


「それさ、藤咲さんの猫とデザイン似てるよな?」


「まどか今着てるの?」


今の藤咲さんは、黒パーカーを着ていて猫Tシャツが見えない。諸星さんが首をかしげるのは当然だ。


「まぁね。さっきちょっと見せたの」

藤咲さんはそう言って、パーカーのファスナーを開けて猫Tシャツを見せる。


「…まどか、ブラ透けてるんだけど」


白の猫Tシャツに黒いブラだからな…。


「猫がうまく隠してくれると思ったんだけど無理だったね。佐竹さんもさっき観てきたし」


やっぱりブラ透け観てたのバレてた! …怒ったりしないかな?


「ほうほう、さたけんはむっつりと…」

1人で納得し始める諸星さん。


「違う!」と言えないので、黙って受け入れるしかない…。



 「佐竹さんは猫派? 犬派?」

藤咲さんが興味津々な様子で訊いてくる。


訊いた理由は、俺が諸星さんの犬Tシャツに触れたからだろうな。


「やっぱ犬だよね?」


「いや猫でしょ?」


犬派と猫派の争いは王道中の王道だ。たけのこの〇VSきのこの〇並にメジャーだな。


「犬のゲームより猫のゲームのほうが多いし有名だから、猫派のほうが多いのよ!」


藤咲さんはそう言うがどうだろうな? ソースは忘れたが、犬派のほうが多かった気がするぞ…。言う必要ないから黙ってるけど。


「でも犬のほうが人の役に立ってるよ? 警察犬とか盲導犬とかさ」


「猫だって人の役に立ってるじゃん? 『癒し系』として」


「癒すなら犬もできるよ? 出来ることは、絶対犬の方が多いね!」


藤咲さんと諸星さんは熱い議論を交わしている。2人の気が済むまで放っておこう。



 「…また始まった」

うんざりした様子で言う滝名さん。


「こういう事、何度もあるのか?」

議論の邪魔をしないよう、さっきより小声で話す。


「…わたしがサークルに入った時も訊かれた」


「滝名さんはどっち派なの?」


「…どっちでもない」


こういう時って、で答えるんじゃないの?


「…わたしが好きなのはこの子」

彼女はそう言って、携帯の待ち受けを見せてきた。


「この生き物、何?」

デカいハムスターっぽいのが待ち受けの中心に居座っている。


「…“チンチラ”知らない?」


「聴いたことある気がする…」

うろ覚えレベルだけど。


「…簡単に言えば、大きくてしっぽが長いハムスターだけどモフモフ感が全然違うの」


「そうなのか…」


「…この子を撫でてる時が一番癒される」


「そうか…」

実際触って確認したくなってきたぞ。



 「猫の『にゃ~ん』は最高なのよ! あの鳴き声に何度癒されたか…」


「犬の『くぅーん』も超可愛いじゃん! 鳴き声は猫の専売特許じゃないから!」


藤咲さんと諸星さんはまだ言い争っている。2人とも、愛が凄いな。


「結局、さたけんはどっち派なの?」


「佐竹さん、正直に答えて!」


矛先が急にこっちに来た。…ここは素直に言うか。


「俺は…、猫派だ」


「さすが佐竹さん。話が分かるね」


「さたけんの裏切り者~」


藤咲さんは上機嫌になり、諸星さんはテンションを下げる。


……なんとなく、周りの視線を感じるような? そう思って確認したところ、一部のお客さんとホールスタッフが俺達を観ている。


長居しているし、議論の声が大きかったからだろう。


「藤咲さん。もうそろそろ出よう」


「…そうね」


彼女も違和感を抱いていたか。


「雫と芽依ちゃんはどうするの?」


「私達も出るよ」


こうして俺達は会計を済ませた後、逃げるように店を後にした。

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