第2話 猫Tシャツをきっかけに知る真実

 土曜の昼過ぎにやったカレー大食いチャレンジで、女子大生の藤咲ふじさき まどかさんと知り合った俺。しかも“大食い仲間”という体で連絡先を交換できた。


俺、数年分の幸運を一気に使い果たしたかも…。



 その夜。自室でゲームをしていると、藤咲さんから連絡が来た。“大食いチャレンジに誘うかも?”と言っていたが、あれはマジだったのか。


てっきり社交辞令かと。…そんな事は置いといて、内容を確認しよう。


『明日パフェの大食いチャレンジがあるんですけど、一緒にどうですか? サークルのみんなとは都合が合わなくて…』


パフェか…。正直気乗りしないが、女子大生と仲良くなれるチャンスだ。仮に断ったらと思われて、2度と誘われなくなるかも…?


それだけは避けないと! 俺は参加表明を藤咲さんに伝えた。



 翌日。藤咲さん指定の時間に店内に入る。さて、彼女はどこにいるかな…?


佐竹さたけさ~ん。こっちこっち」


店の入り口でキョロキョロしている俺に、テーブル席にいる藤咲さんが声と手招きジェスチャーで伝える。


まるで恋人との待ち合わせみたいで緊張するな。実際そう思ってるのは俺だけだが。すぐ彼女の元に行き、向かい合って座る。


…藤咲さんは、昨日とは違う柄の黒パーカーを着ているな。彼女、パーカー好きなのか?


「佐竹さん。来てくれてありがとう」

笑顔で話す藤咲さん。


「あの時言ったように、都合が合っただけだよ」


「それでも嬉しい♪」


俺のような冴えない奴が来ても喜んでくれるなんて…。彼女は良い人だ。


藤咲さんはテーブル端にある呼び出しボタンを押した。……その音を聞いて、すぐホールスタッフが俺達のそばに来る。


「すみません。特大パフェ1つ」


「かしこまりました」

ホールスタッフはそう言ってから、注文の確認をせず離れる。


あれ? これって普通の注文だよな? どういう事だ?


「佐竹さん。実はあたし、嘘付いちゃったんだ…」

バツが悪そうな顔をする藤咲さん。


「嘘?」


「うん。この店、大食いチャレンジやってないんだよ。佐竹さんを呼ぶために嘘付いたの…」


「どうして嘘を付いてまで、俺を呼ぼうとしたんだ?」


「佐竹さんのことをもっと知りたいからだよ。初めての男の人の知り合いだからね」


初めてなのか…。嘘でも悪い気はしない。見た感じ反省してるっぽいし、許してあげよう。


「今回は気にしないけど、これからは正直に用件を伝えて欲しい。…良いかな?」


「わかった。今度からはそうするね」



 「実は俺も、藤咲さんをもっと知りたいんだよ」

この言葉に偽りはない。俺が嘘を付いたら元も子もないよな。


「あたしの事? 答えられることなら何でも答えるけど?」


最初は警戒心を抱かれないような軽い話題が良いな。


「昨日、カレーを食べてる途中でパーカーを脱いだだろ? その時の猫Tシャツが気になったんだよ」


Tシャツの真ん中に、デフォルメの猫がプリントされていたのだ。


「あれはあたしのお気に入りTシャツの1つだね。今日も着てるんだよ」


藤咲さんはパーカーのファスナーを開け、中のTシャツを見せてきた。


昨日は黒Tだったが、今日は白Tなのか。…今日の猫はデフォルメの感じこそ同じだが、体勢が違う。色々なパターンがあるのか。


「あっ…」


「佐竹さん、どうかした?」


「なんでもない…」


「?」

首をかしげる藤咲さん。


白Tの中心を見つめ続けたことで、彼女の黒いブラが透けていることに気付いてしまった。それともう1つ、気付いたことがある。


藤咲さんは…、意外? と胸がある。昨日のカレーの時は隣同士だったし、時間に追われて見る余裕がなかった。だが今は精神的な余裕があり、しかも真正面から観ている。


なので胸の大きさがある程度わかる。大きすぎず小さすぎない良いサイズだ!


「佐竹さん、猫じゃないところ見てなかった?」

パーカーのファスナーを閉め終わった彼女が言う。


「気のせいだって」

ガン見しすぎたか?


「ふ~ん…」

藤咲さんは意味深な表情をする。


バレてるけどあえて見逃してるような…? 俺の気のせいだと思いたい。



 ……さっきのホールスタッフが、デカいパフェを持って俺達のテーブルまで来た。


「お待たせしました、特大パフェになります」


「ありがとう」


藤咲さんの礼に合わせ、俺もちょっと頭を下げる。


「ごゆっくりどうぞ」

ホールスタッフは持ち場に戻っていく。


イチゴやバナナなどのフルーツのボリュームも凄いが、何より生クリームの量が半端ない。この量を1人で食べるのは、フードファイターじゃないと無理だ。


「パフェも来たことだし、話しながら食べようか佐竹さん」


「そうだな」


俺達は別々のスプーンでパフェを食べ始める…。

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