大食いチャレンジで知り合った女子大生が可愛くて無防備な件

あかせ

第1話 あたしも参加させて!

 「俺にできそうなのあるかな~?」


金曜の夜。俺は今、自宅のネットで近辺の飲食店が開催している大食いチャレンジを調べているところだ。


大食いは有名な個性だと思うが、そこまでの地位を獲得できたのは優秀なフードファイター達のおかげだろう。とても感謝している。


俺はフードファイターほどじゃないが、間違いなく一般人よりは大食いだ。食う事が好きなので、日頃のストレス解消と彼女が欲しい思いを“食欲”で発散している。


25にもなって『彼女いない歴=年齢』だぜ? 欲しいと思うのは自然だよな?



 …必死に大食いチャレンジを探したが、どれもフードファイターを対象にしていてハードルが高い。あれは店をアピールする手段になるし、中途半端じゃダメなのはわかるけどさぁ…。


探すのを諦めかけた時、ある大食いチャレンジが俺の目に留まった。


『カレー1.5キロ』か。3キロ以上が当たり前の中、なかなか良心的だ。“それ以外の条件は挑戦時に発表”が気になるが、何とかなるだろ。明日行ってみよう。



 そして土曜の昼過ぎ。俺はカレー1.5キロを食べるため、目的の飲食店に入る。大食いチャレンジは忙しい昼時だと断られる場合が多い。なのでピーク後の昼過ぎに来たのだ。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

店内に入って早々、ホールスタッフの女性に声をかけられる。


俺のすぐ後にきた女子1人がかどうかを判断するためか。


「1人です。あの、『カレー1.5キロ』の大食いチャレンジをしたいんですが…」


そう言い終わった瞬間…。


「それ、あたしも参加させて下さい!」


俺の後ろから参加表明が聞こえた。彼女も大食いチャレンジするのか。


ぱっと見た感じ、歳は20前後だな。黒いパーカーを着ているから体型は不明だ。とはいえ、体型と大食いは比例しないから関係ないか…。


「かしこまりました。2名様、テーブル席にご案内いたします」


ホールスタッフに付いて行く俺と参加者の女子。…隣同士で別のテーブル席に案内された。


「これから準備いたしますので、少々お待ち下さい」

ホールスタッフは俺達にそう伝えてから、店の奥に入っていく。



 「ねぇ。君どこの大学?」

隣にいる参加者の女子が俺に声をかけてきた。


「大学生じゃないよ。25の社会人だ」

俺、子供っぽく見られてる? スーツ姿なら誤解されないと思いたい。


「嘘、全然見えないけど…。馴れ馴れしく話しかけてごめんなさい」

彼女はしょんぼりとした様子を見せる。


「全然気にしてないから! 俺敬語慣れてないし、気軽に話してほしいな」

自分で言うのもなんだが、大した奴ではない…。


「…ありがとう。そうさせてもらうわね」



 それからは沈黙し続ける俺と参加者の女子。そんな中、ホールスタッフ2名がどデカい皿を俺達の前に置いた。置き終わった後、俺達を席に案内したホールスタッフだけが残る。


これが大食いチャレンジのカレーか。具は皆無で、トッピングはなし。ルーにとろみはなく『カレーは飲み物』という迷言? が合うな。


ご飯は1.5キロあるから当然多いが、これなら楽勝だろ。


「お二人共、準備はよろしいですか?」

ホールスタッフが俺達に確認してくる。


「大丈夫です」


「はい」


俺と参加者の女子がそれぞれ答えた。


「制限時間は15分。時間内に食べ終わった場合、お代は頂きません。しかし食べ終わらなかった場合、1万円を頂戴いたします」


15分!? 最低でも20分は欲しいんだが…。仕方ない、気合を入れよう。


「それでは……はじめ!」



 カレールーは中辛で程良い辛さだ。食欲は進むが15分は厳しい。味わって食べる余裕はないぞ。ここの大食いチャレンジは、ボリュームではなく制限時間が厳しいタイプか…。


ホールスタッフは俺達を見守っている。不正をしないように監視するためだ。隣の女子は…、黙々と食べている。ペースは俺より早い。


「ふう…」

スプーンを置いた彼女は、暑いのか黒パーカーを脱ぎ出した。


…華奢な体が着ている黒生地Tシャツの真ん中に、デフォルメの猫がプリントされている。猫自体も可愛いが、それを選ぶチョイスも良いな。


俺は猫派だから、彼女とは気が合いそうだ。


「?」

俺の視線に気付いたのか、こっちを観る参加者の女子。


いつまでも彼女を観てる場合じゃない! 時間内に食べ切らないと罰金1万円だぞ!


「何でもない」

最低限そう伝え、カレーを胃袋に流し込む。ペースを上げていかないと!



 ……俺と参加者の女子は、無事時間内に食べ終わった。俺は14分19秒・彼女は12分48秒。向こうのほうが完全に上手だ。凄いな…。


「おめでとうございます! お二人共!」

俺達を見守っていたホールスタッフが拍手をする。


それにつられて、一部のお客さんがこっちに来たり拍手したりする。


「なんだか恥ずかしいね」

参加者の女子が俺に向かって言う。


「だな…」

こんな扱いをされたのは初めてだ。けど悪くない気分だ。



 ルール通り時間内に食べ終わったので、金を払う必要はない。タダで昼飯を済ませたことになる。できればまたチャレンジしたいが、さすがに連続はマズイよな…。


「ねぇ。大食いはよくするの?」


ホールスタッフが皿を片付け終わった後、参加者の女子が再び俺に話しかけてきた。


「たまにだな。俺に合う条件があまりなくて…」


「あたしもそんな感じ。複数人参加OKのチャレンジだったら、サークルのみんなと食べるけどね」


「サークル?」

ってことは、彼女は大学生か。


「あたし、これでも大食いサークルの部長なのよ」


「部長なのか。凄いじゃないか」

今までの人生、トップとかリーダーとは無縁だったから彼女が優秀に見える。


「まぁ、あたし入れて4人しかいないけどね…」


サークルにしては人が少ない気がするが、言う必要はないな。



 「ねぇ。またどこかで会うかもしれないし、自己紹介しておかない?」

参加者の女子が俺に提案してきた。


「それは良いな」

女子大生と顔見知りになれるんだ。断る理由はない。


「あたしは長浜女子大学2年 藤咲ふじさき まどかよ」


「俺は佐竹さたけ 英二えいじだ」


「佐竹さんね。覚えたわ」


「俺も覚えたぞ、藤咲さん」


「佐竹さん。ついでに連絡先も交換しない?」


女子大生と連絡先を交換…。夢のような展開だ。


「本当に良いのか?」


としてよ。それ以外の意味はないから」


それ以外の意味があったら逆に怖いぞ。俺達はこの店が初対面なんだから。


……俺と藤咲さんは、無事連絡先を交換した。


「佐竹さんって社会人なのよね? 平日に大食いチャレンジすることはあるの?」


「平日はしない。時間がないし疲れてるからな。土日限定だ」


「そうなんだ。…もしだけど、あたしが大食いチャレンジに誘ったら来てくれる?」

藤咲さんは恥ずかしそうに訊いてきた。


「食べる物と都合次第だな。どっちも合えば、喜んで受けるぞ」

女子大生からの誘い…。考えるだけでテンションが上がる!


「そっか…」



 その後話題がなくなった俺と藤咲さんは、店の外で解散した。まさか大食いチャレンジをきっかけに女子大生と知り合えるとは。しかも連絡先も交換できた。


これはいつも以上に土日が楽しみになりそうだ。俺は上機嫌のまま、帰路に就く。

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