第23話 皇太孫の不興
「誓って……
朗輝はいま、
紅月に近づいたのも、高家を探るためか、あるいは、蘇家が高家の不正に手を貸していたりしないかどうかを確かめるためだったのかもしれない、と、昨日、英俊はそう言っていた。
紅月もまた、自分などがふいに朗輝の縁談相手になったのも、そうした理由だったのだろうということで、納得していた。
朗輝の意図が、ふたつのうちのどちらなのかは、知れない。
けれども、どちらにせよ、高家と紅月とにいま繋がりがないということは、はっきりさせておくべきだろうと思われた。
高圭嘉と紅月とは、完全に切れている。
高家と蘇家とは、いま、交際を断っている。
朗輝がいくら紅月に近付こうとも、紅月が、高家に
この書状は、だから高家との繋がりを示すものではないのだ、と、紅月はそれだけは主張しておきたかった。
「昨日、高家のご嫡男と行き合いましたでしょう。わたしが殿下とご一緒させていただいていたものですから、わたしと殿下とは懇意だと、あちらに思われたようなのです。それで……」
ただそれだけのことだから、と、紅月は言った。
蘇家と高家とは、いまは本当に付き合いがない。だから朗輝は、蘇家を、紅月を、もうこれ以上、気にかけずともよいのだ、と、そういう意図も裏に含めた。
もう、無理に口説くような真似をしてまで近づこうとする価値など、紅月にはない。そんなことをしても、すこしも朗輝の役には立たない。
ただの、徒労だ。
だから、今後はもう、何となればこの書状を利用して高家に近づいて、あるいは高家息女である
「用件は、それだけです……わたしはこれで」
失礼します、と、そう言って、紅月はその場を去ろうとした。
けれども、挨拶の礼をして
「――あいつは、あなたを捨てた男だよね?」
まだまだ厳しい表情をしたままで、相手はこちらに詰め寄るような調子で言う。
「どうしてそんな男のために、今更、あなたが動くんだ……! なんなの? やっぱりまだ、あの男に気があるってこと?」
「っ、ちがいます!」
「じゅあ、なに? これがどんな用件の書状か、向こうの下心まで含めて、賢いあなたにわからないはずがないよね? だったら、いまあなたがしていることは、僕に他の女を
朗輝の声には、腹からの、重たい怒りが
「
「……だからなに? 僕が縁談を進めているのは、他の誰でもなく、あなたなんだよ。僕は、あなたを……」
「っ、そういうことは!」
紅月は思わず朗輝の言葉を遮るように声を荒らげた。
「そういうことは、これからは、鈴麗どのに言って差し上げてください。わたしにしたのと同じようになされば、きっとすぐにも心を開き、殿下をお慕いするようになると思いますから。阿玲は、昨日も、殿下を気にしている様子でしたし……殿下のお知りになりたいことも、彼女から、聴き出せるかもしれない」
「なんの、はなし……?」
戸惑う様子の朗輝に、紅月はそっと息を吐く。
そういえばこれは皇帝の密命に関わることだ。簡単には明かせるはずもない。それで朗輝は誤魔化そうとしているのだろう、と、そう思って、紅月は諦めたかのように、ただしずかに笑んだ。
こちらの手首を掴んでいた朗輝の手指の力がわずかにゆるんだので、紅月はするりと我が手を抜き取る。
「蘇家は、わたしは、殿下のお役に立つようなどんな情報も、はじめから持ってはおりません、と……それだけ、申し上げておきます」
それでは、と、改めて礼をして、今度こそ歩み出す。
「っ、待って!」
朗輝が叫ぶように言った。
「あなたが何を言っているのか、僕にはわからない。紅月どの! ちゃんと話をしよう! お願いだから……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます