37.人捜し
花村結生が捜している人は背が低い黒髪の女性で、名前は「
再び電車に乗って、今度は
ここはわたしの家の最寄り駅でもある。ショッピングモールとは反対方向の住宅街の中に、我が家があるのだ。この頃、両親は2人きりでどんな生活をしていたんだろう……
ショッピングモールへ向かうわずか200メートルほどの道中で、花村結生は作戦を切り出した。
「二手に分かれて捜しましょう。紗耶香さんらしき人を見かけたら、1人か2人でその人を尾行して1人がもう片方のグループを呼ぶ、どうしても見つからなかったら他を当たる、こんな感じでどう?」
「それじゃあ花村さんと由幸先輩チーム、あたしと美亜ちゃんと先生チームで捜すってことでいいですかね?」
「え、ち、ちょっと待ってよ! なんで咲良さんが勝手に決めちゃうの!」
由幸さんへの助け舟なのか平然と花村結生と2人になるようチーム分けをした咲良に、由幸さんがすぐさま抗議する。咲良は口を尖らせた。
「えー、ダメですか」
「ダメに決まってるでしょ。ここは無難に男女で分けたらいいじゃん。だって異性が2人きりで……特に一方的に好意を寄せられてる相手といたら、花村さんも怖いでしょ」
「あ、確かに……すいません、配慮が足りてなかったですね」
「私は別に貴方と組んでも構わないけど」
咲良と由幸さんの懸念をものともせず、花村結生は咲良の案に乗った。怖がるどころか微笑を浮かべている。
「い、いいんですか……?」
「だからそう言ってるじゃない」
花村結生が呆れながらもうなずく。由幸さんはまた赤面した。
ショッピングモールに入って早々、由幸さんと花村結生と別れて咲良と原田先生とエスカレーターで2階に上がる。由幸さんたちは1階で、わたしたちは2階で戸波さんを捜す作戦だ。モール内は控えめに冷房がかかっている。
「黒髪で背が低めとだけ言われてもなぁ、条件が広すぎて個人を特定するのは難しいよなぁ。こっちは顔を知らないんだから」
エスカレーターのそばの中規模雑貨屋へ入っていき、原田先生がぼやく。わたしは先生
の背後から相槌を打つ。
「そうですね。たったそれだけの条件なら咲良だって引っかかりますし」
「でも花村結生が捜してるのは高校生じゃなくて成人女性なんじゃない? 写真とかあったら先に見せてもらったほうがよかったね」
「そう簡単に見せてもらえるとは思えないな、俺は」
原田先生は怪訝そうに目を細める。花村結生へ敵意を向けてるのは明らかだった。
「現時点で与えられた情報の中身がこんなにしょうもないからな。元々俺たちに手伝わせるつもりはなかったみたいだし、信用されてないのかもしくは俺たちに知られたらまずい相手なのか、どうにも他の細かい情報を隠されてる気がしてならないんだ」
「知られたらまずい相手って……昔仲が良かったけど今は犯罪者として名が知れてるとか不祥事を起こした芸能人、みたいな人ですかね?」
「かもな」
咲良の推測に原田先生はうなずく。しかし、すぐに否定の言葉が飛んできた。
「でも、この時代で『戸波紗耶香』って名前をテレビで聞いた覚えはないぞ」
「その名前自体も嘘だったりしませんか?」
「それも有り得るな……ったく、完全に人捜しを続ける口実のために利用されてやがる」
まあ今はあいつの好きにしてやってこっちは適当にやるか、と捜索を諦めた原田先生と同じ順路をたどって、とりあえず店内を1周する。かつて家にあった小さなぬいぐるみがついたキーホルダーや派手にキラキラしている様々な文房具といった品揃えだったから、あえて目を伏せ続けた。
それからも1店舗ずつ店内に入りある程度歩き回ったら出るを繰り返し、わたしたちが入った入口から最も遠いゲームセンターをぐるりと周回して出ようとすると、小学生くらいの男の子が2人、トレーディングカードで遊べるゲーム機の前で喧嘩しているのが目に入った。
「兄ちゃんだけずるい! ボクもそれ欲しい!」
「ダメ! オレの分で引いたんだからこれはオレのモンだ!」
兄弟だろうか、どうやら筐体から出てきたレアカードの取り合いになってるらしい。2人の母親らしき女性が「今度やった時に出せばいいじゃない」となだめているけれど、そう簡単に当てられるものじゃないと思う。
「ふふっ、なんか微笑ましいね」
咲良がクスリと笑う。懐かしいなぁ、と過去を愛おしむように目を細めて。
「あたしも小学生の時、弟とゲームのメダルでよく取り合いになってたんだよね。そこまで好きじゃないしレアでもないキャラのメダルでも、弟が持ってるってだけで嫉妬しちゃってさ」
「へぇ、咲良も人と喧嘩することあるんだね。あんまりそういうイメージないかも」
「学校じゃ怒るようなことは起きないからね。そういえば美亜ちゃんは兄弟っているの?」
「ううん、いないよ。兄弟喧嘩はしたことないけど、陽菜乃とは昔から喧嘩ばっかしてるよ」
「あはは! やっぱり仲良いんだね!」
「だから仲は悪いんだって!」
そうして咲良と騒いでるうちにさっきの小学生兄弟の喧嘩は収まったようで、女性が安堵の表情で2人を連れてわたしたちのそばを横切る。無事に決着がついてよかったとこっちもほっとしていると、今度はゲームセンターの入口に設置されてるクレーンゲームで遊ぶ女子高生の後ろ姿が気になった。
わたしたちと同じ星霜高校の制服を着ている。肩甲骨あたりまで伸ばした茶色い髪はわたしの髪色とそっくりだ。左手首にはめた淡い水色の腕時計の文字盤には、さぞ綺麗な星空柄が浮かんでいることだろう。
……あれ。なんで今そんな想像をしたんだ。いけない。幼い頃の記憶に引っ張られている。早く忘れないと。左耳の上につけた、水色の星形の飾りに星空模様が入った2つのヘアピンに触れて、心を落ち着かせる。
そう内心で焦ってるうちに女子高生は何も取れないままクレーンゲームから離れ、別のゲームをやるためか奥へ進んでいく。一瞬垣間見えた彼女の横顔は、わたしの全身を硬直させた。
――どうしてここに、お姉ちゃんがいるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます