Ⅱ両目:春宵一刻の選択
11.My Ideal Music
新学期早々、小学生から通っている音楽教室でドラムを続けるか高校の軽音楽部でドラムを続けるか選べと母親に言われた。
2つの環境で、しかもそれぞれジャンルの違う音楽でドラムをやってるせいでかえって演奏が中途半端になっているという。
小学5年生の頃、動画サイトでたまたま見かけた海外ミュージシャンのMVで聞いたドラムの虜になって洋楽やインスト曲を漁っていたら、母親が楽器屋チェーンが経営している音楽教室でドラムを習わないかと誘ってきた。
僕がドラムなんて叩けるわけがない。だって手と足で全然違う動きをするのって難しいし。
初めはそう言い訳してたけれど、半ば無理やり連れられた体験レッスンを受けると思った以上に楽しくて、すぐに入会手続きをした。
そこでは基礎と僕が好きな曲の演奏をメインにドラムを教えてくれた。ドラムを始めて半年が経った頃には父親が電子ドラムを買ってくれて、時間があればいつも家で練習した。
するとポップスでもジャズでも、だんだん演奏できる曲が増えていった。
好きな曲を演奏できるようになっていくのは楽しい。だけど、ずっと1人でドラムを叩き続けるだけじゃ満足できなくて、いつしか誰かとバンドを組んで一緒に演奏することに漠然と憧れを抱いた。
そう思いつつも、バンドをやろうと自分から誘う勇気はない。
だから、それなら自然にバンドを組める環境に入り込もうと、高校で軽音楽部に入部してやっとバンドを組んだ。
僕のバンドではよく邦楽のカバー曲を演奏していて、オリジナル曲を1曲作った時も邦楽ロックを参考に作曲した。
そういう音楽も好きだけど、本当は洋楽も演奏したくて、一度洋楽もやろうと提案してみた。しかし、ギターボーカルに英語は苦手だから無理だと一蹴され、ジャズやインスト曲も勧めてみたら歌がないとつまらないと断られた。
せっかくバンドを組めたのに自分がやりたい音楽をバンドでやらせてくれないとなると、なんとなくモチベーションが保てない。
ドラム教室では好きな音楽を演奏できているから尚更、願望が叶わない環境での活動にやる気が出ないのだ。それはあくまで部活開始前の話で、数分でもバンドメンバーと練習をすればやる気は戻るけれど。
でも、最初から練習にやる気を持てないのはメンバーに申し訳ないし、どうせなら常に真摯な姿勢で音楽と向き合いたい。
だったら、ずっと好きな音楽をやり続けられるドラム教室を選んだほうがいいだろうか……
いや、音楽の方向性が違うだけで、バンドメンバーとの仲はすごく良い。メンバー間でギスギスしているバンドも少なくないと聞くし、この環境を手放すのはもったいない気がする。
それに、今軽音楽部を退部したらただでさえ人とのコミュニケーションで最初の一歩を踏み出せない僕が、この先憧れのバンド活動をできるとは思えない。
理想の音楽を選ぶか、理想の活動形態を選ぶか――
果たしてどっちが今の自分のためになるだろう。
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