第20話 その名前を呼ぶ
「「死神の名前は、アイラ!」」
「ええーっ! アイラってAIやろ? AIが死神!?」
「静かに杏。何かが起こるよ」
神隠さんがそう言うと、目の前のパソコンの一台がひとりでに起動し画面に文字が現れる。
『どうしてわかったのですか?』
「条件を絞り込むと、自然とね。教師や生徒として紛れ込むのは、少し難しいみたいだしね」
「うん。それにアイラ、あなたは知り過ぎていた。監視カメラの少ないこの七陣小学校で、データとして説明がつかないほどに」
そしてアイラは、神隠さんを七陣小五年二組の生徒だと登録していた。少なくとも彼女は本当に生徒のはずだ。もし神隠さんが死神なら、AIのアイラは詳細不明ではなくて、該当者なしと答えていたと思う。
「AIはアーティフィシャル インテリジェンスの略だ。発達した人工知能の外側だけ利用したのかな? その知能の中身は死神だったってわけだ」
『その通りです。私は既に存在していたアイラという人工知能を利用しました。ばれないと思っていましたが、不覚ですね』
今だにあっけにとられている杏ちゃんに「後で説明してあげるから」と言うと、神隠しさんは聞かなければいけない事をアイラに聞く。
「さあアイラ、これでチェスならチェックメイトだろう? 将棋なら王手だ。これからどうする? 熱血バトル物よろしく戦いでも始めるかい?」
『いいえ神隠葵。見つかった以上、かくれんぼは終わり。また何十年後になるかわかりませんが、世界が死を欲したとき、私は現れましょう』
身構えていたけれど、意外にも素直に死神は立ち去るみたいだ。だけど立ち去る前の死神に、ひとつ聞きたい事がある。
「ひとつ、聞いても良いかな?」
『なんでしょう近藤楓』
「どうして七不思議はこの春からまた活動が活発になったの? 私たちが七不思議探しを始めたから?」
『いいえ。おそらく私がこの学校に侵入したことで、不思議が七つそろったためでしょう』
不思議が七つそろったから?
『私見ですが、きっと七という数が重要なのです。ひとつひとつが脆くても、七つ集まることで恐ろしく感じる。それが七不思議なのでしょう』
「そうなんだ、ありがとう。でも七陣小にもう来ちゃだめだよ」
そんな私の言葉を聞いたのか聞かなかったのか、パソコンの画面は再び黒に染まる。
「はあ……。楓、あんた死神にありがとうなんて良い人が過ぎるわ……」
「あはは、つい思わず……」
でもこれで七不思議は全部解決。ほっと一安心だな――そう思った所で、後ろでドサりと音がした。見ると、神隠さんが倒れている。
「葵!」
「神隠さん!」
☆☆☆☆☆
「「保健室登校!?」」
放課後の保険室に私と杏ちゃんの声がハモって響いた。
ベッドには、目を覚ました神隠さんが寝ている。
「うん。私は生まれつき身体が弱くてね。七陣小に席を置きつつも、ずっと自宅学習をしていたんだ。五年生になっても保健室登校。病院に寄って登校したりするから、日によっては放課後になってしまう。だからまだ教室に机を置いてもらってないし、出欠の時に読み上げられもしないかな」
それが神隠さんを杉山君が知らなかった理由。そして放課後少し遅れて図書室に現れる理由だ。保健室や病院から直接図書室に来ていたんだ。だから司書の和田さんも知らなかった。
「だから五年二組というのは本当だけど、図書委員というのは嘘なんだ。ごめんね。委員会とかクラブ活動に憧れていてさ、みんなと一緒に色々したくなっちゃったんだ」
「ううん、いいよ。ところで体調は大丈夫なの?」
「ああ。死神が去ったからか、とても体調が良くなったよ。それで死神の正体についてだけど、ひとつ仮説があるんだ」
死神の正体?
それってアイラってことじゃなくて?
「アルバムには過去、死神は空襲や地震を起こして生徒の命を奪ったと書いてあったね」
「そうだね」
「それは時代の死の形じゃないかと思うんだ。戦時中だったから空襲、地震が頻発していたから地震。死神は去り際こう言っていた。『世界が死を欲したとき、私は現れましょう』ってね」
なるほど。その時々の形に合わせて、死神は襲ってくるというわけか。
「あれ? じゃあ今回はなんなの?」
「そうやなあ。少なくとも戦争や災害じゃないやんなあ?」
「ウイルスだよ」
「「ウイルス?」」
「私はここ数日、持病の他に原因不明のウイルスに襲われていた。そしてアイラにとり憑いたのは――」
「「コンピューターウイルス!」」
「そう。きっとそれが今回の死神の死の形」
なるほどなあ。でも解決して良かったよ。学校中謎のウイルスで全滅とかなったら、しゃれにならないでしょ。
「それにしても葵、元気なって良かったなあ。来週あたりからは来れるか?」
「来れるってなにが?」
「図書委員やろ。うちが二組の担任に言うて、サボっとる川瀬と入れ替えて言うといたわ」
杏ちゃんなんという行動力。でも川瀬君って骨折じゃ……ああ、最初はサボったんだっけ?
「体調は問題ない……かな。でもとびきりの薬があれば、すぐ治るかも」
「ええ!? そんなのあるの?」
「ああ。……楓、名前で呼んでくれないか?」
――ええっ!?
「図書室で出会ったあの日、話しかけるのにすごく緊張した。なにせ初めて話す同級生だからね。でも話しかけて良かった。楓や杏という素敵な親友ができた。だから名前で呼んでくれないか?」
「ええっ、ちょ、え!?」
「ほら、早よ名前で呼んでやれや」
「う、うん。……あ、葵ちゃん、早く元気になって、また一緒におでかけしようね」
神隠――葵ちゃんの顔は、リンゴみたいに真っ赤に染まっていた。……きっと私の顔も同じ色だったと思う。
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