第18話 その七、”※※※※※”
「ねえ杏ちゃん、最近神隠さんに会った?」
「いいや、見とらんけど。楓は?」
「それがどこにも見当たらないんだよね。前は放課後よく図書室にいたけれど、最近は見かけないし」
私は神隠さんの連絡先を知らない。彼女とはいつも図書室で出会うか、廊下で不意に声をかけられて集合場所を伝えられる感じだった。
「杏ちゃんあれだけ呼び名のことを言っていたのに、自分は連絡先さえ知らないなんて」
「言うて自分も知らんやろ。まあいいやん、今日は図書委員の当番やし、図書室行ったらおるやろ」
なんて会話をしながら図書室へ向かったのだけれど、神隠さんの姿はなかった。また用事で遅れてくるのかな? というか図書室には誰の姿もない。利用者はともかく、二組のもう一人の図書委員である杉山くんも、司書の和田さんもだ。
「しゃあない。とりあえず誰もおらんのもあれやし、カウンターにおらんと」
「うん、そうだね」
貸出カウンターに座るも、やっぱり利用者は来ないので二人して返却本を本棚へと戻す。それもすぐ終わってしまったので、私たちはすっかり手つかずになっている卒業アルバムの棚の整理を始めた。
「……あれ? これってもしかして神隠さんが持っていた年度じゃ?」
「どれどれ? あ、ほんとやな」
神隠さんがずっと借りっぱなしだった、七不思議の記事が書かれているアルバムだ。パラパラとめくるとやはりあった。七陣小七不思議。
「そういや七不思議の最後ってどうなったんや?」
そんな杏ちゃんの言葉にはっと気がつく。
そうだ。私たちが体験した七不思議は全部で六つ。
その壱、“夕暮れに鳴るピアノ”。
その弐、“走り回る金次郎像”。
その参、”満月の大鏡”。
その四、”体育館の落ち武者”。
その五、”トイレの花子さん”。
その六、”人食い階段”。
その六つだ。七不思議である以上、残りは一つ。最後の七不思議が残っているはずだ。好奇心を抑えられない私たちはページをめくって、最後の七不思議を確認する。そこには――。
「あったよ、七陣小七不思議その七、“一人増える”」
「一人増える? どういうこっちゃ?」
「読むね。『春が訪れると、校内に存在しないはずの人間が一人増える時がある。それは死神だ。夕日に隠れて紛れ込んでいる。夏休みまでにその人物を見つけないと、必ず学校に不幸が訪れる。前は地震、その前は空襲、必ず生徒に犠牲者が出る』……だって」
最後の七不思議だけあって、スケールが大きい。さすがに嘘なんじゃないかと思うけれど、これ以外の六つが事実であった以上、これも事実である可能性は大だ。
「こんなんやばいやろ。早よ見つけな! なんかヒントはないんか?」
「待って杏ちゃん、書いてあるよ。『紛れ込んだ死神のヒントは、名前の最初に必ず“あ”がつくということ』……“あ”から始まる名前か」
「“あ”ぁ!? それってうちやんけ! うちもしかして死神やったんか!?」
「落ち着いて杏ちゃん。杏ちゃんは一年生の時からいるから、今年の春に紛れ込んでいないでしょ」
「そうかあ? 絶対?」
「絶対だよ」
杏ちゃんが死神なんて絶対ないはずだ。だって一年生の時からの思い出が沢山あるし、この条件に当てはまらない。正体に気づけるということは、そういう偽の記憶みたいなのはないはずだ。
「でも困ったな。夏休みはもうすぐだし、タイムリミットが近いよ」
「それなら候補をリストアップやな。アイラ、名前が”あ”で始まる生徒をリストに出して」
『百八人の該当者が見つかりました』
「百八人!? 多すぎやろ!」
あきひろ、あきと、あかり、あやか、リストには様々な”あ”から始まる名前が並んでいる。うちの学校はだいたい三十人ちょっとで一クラスだ。それが六クラスで一学年。それだけの人数がいれば、対象の生徒も膨大な数になる。
そんな中、私は一つの名前を見つけて動揺する。
神隠 葵。カミカクシ アオイ。神隠さんも、”あ”から始まる名前だ。
いやまさか、そんなはずない。でももしかして……。神隠さんと初めて出会った時、私は不思議な雰囲気を感じた。それに彼女は謎が多い。けれど違う。違うはずだ。私はブンブンと頭を振って、その考えを追い払う。
「そうだ、別に生徒とは限らないんじゃない? 先生とかは?」
「そうか! アルバムには別に生徒とは書いとらんもんな! アイラ、教職員も追加や!」
『七名の該当者が見つかりました』
「おお! となるとこの春に赴任してきた
どうしよう。このリストの一人一人を確認するしかないのだろうか? まさか「あなが死神ですか?」なんて聞けないし。私たちが頭を悩ませていると、司書の和田さんが杉山君を連れて帰ってきた。
「遅くなってごめんなさいね。杉山君に荷物を運ぶのを手伝ってもらっていたの」
杉山君は野球をしている、背の高い体力自慢の男の子だ。今日も重そうな荷物を誇んできたみたい。ご苦労様です。
「アルバムの整理をしてくれていたの? ありがとう。……あら? 懐かしいわね。七陣小七不思議だなんて」
「和田さん知っているんですか?」
「知っているもなにも私はここの卒業生よ。昔はみんな噂したものだわ」
「じゃ、じゃあ七不思議の死神について何か知っていませんか!?」
「……死神? うーん、ごめんなさい。もうトイレの花子さんくらいしか覚えていないわ」
「そうですか……」
残念だ。何かヒントを聞けそうだと思ったのに。落ち込む私たちを見て考え事をしていた和田さんは、ハッと何かを思い出した顔をした。
「……でも待って、そう言えばその記事を書いたオカルト好きの子が、死神を図書室で見つけたとか言っていたわ」
「死神を!?」
図書室。その単語を耳にしたとたん、背筋に嫌な感覚が走る。
私はその感覚を振り払おうと、杉山君に話しかける。
「ね、ねえ杉山君。そういえば神隠さんはお休み?」
「神隠……って誰?」
「……え?」
とぼけている様子じゃない。杉山君は本当になんのことかわからないといった様子で答える。隣で杏ちゃんが息をのむ。
「や、やだなあ、もう一人の図書委員のだよ」
「いや、二組の図書委員は
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