第3話 杏ちゃんとアイラ
翌日。私は昨日の放課後体験した不思議な事件を、友達の
こんな話、誰にも彼にもするわけにはいかない。だから一年生の頃から友達で、信頼できる杏ちゃんにだけだ。
「ええええっ! ユーレイっ!?」
「ちょっと、声が大きいよ杏ちゃん!」
「あ、ごめんごめん」
ちょっとだけ前言撤回。声が大きい以外は、たぶん信用できる杏ちゃんだ。
「そんで?」
「そんでって何が?」
「それからその幽霊はどうなったん?」
「どうって……、まだ音楽室にいるんじゃないかな?」
「ええええっ!」
「だから声が大きいって」
あのお姉さんも、別に悪いことはしていない。そんなに驚くことないんじゃないかな。ただピアノを弾いているだけだからね。
「でもすっごく怖かったんだから。それもこれも、杏ちゃんが昨日図書委員を休んだのが悪い!」
「ええっ、そうなんの!?」
「そうなるの。で、昨日はどんな用事だったの?」
「昨日はバスケの助っ人やったよ」
髪をショートカットにそろえた杏ちゃんは、運動神経抜群だ。バスケや野球にサッカーもそこらの男子より上手で、いつも助っ人を頼まれている。
「ふーん、じゃあ今日の給食のプリンね」
「ええっ、プリンは勘弁!」
「幽霊よりはいいでしょ。プリンね」
「ううっ、仕方ないなあ……」
よし、プリンゲット。
プリンなら昨日の体験もぎり釣り合うかな。
「それにしても、あの有名な音楽室の怪談がまさか本当やったなんて……」
「え、有名なの? 私聞いたことないんだけど?」
「そりゃそうやろ。あんた怖い話しとるとすぐ逃げるやん」
うっ、そう言われると……。
「良い人のあんたをわざわざ嫌がる話につき合わせる奴はいないって。まあ、いてもうちがしばくけど」
「うん、ありがとう杏ちゃん」
杏ちゃんは昔から、こうやって私を助けてくれる。私がどうしても嫌なことを断り切れず押しつけられそうなとき、助け船を出してくれるのはいつも彼女だ。
「で、その七不思議探索はまだ続くん?」
「うん。今日の放課後にも集合ねって、神隠さんは言ってたよ」
「ふーん。……なあ、うちからその神隠さんに断ってやろうか?」
「……うーん。いや、大丈夫」
「そうなんや。まあ、さっきも楽しそうに話しとったしな」
昨日の体験は、怖かったのは確かだ。けどそれ以上に、楽しかったんだと思う。少なくとも、私一人だと体験することはなかった。神隠さんが七不思議探しに誘ってくれたおかげだ。
それに神隠しさんの事も気になる。あんなに美人で珍しい名字なのに今まで知らなかった。交友関係が広い杏ちゃんも知らなかったそうだ。最近転校生が来たって話も聞かないし、どうしてだろう?
「じゃあさ、神隠さんについてちょっとアイラに聞いてみよ」
「……アイラ? 誰だっけ?」
「ほら、
言われて思い出す。アイラは、この春から七陣小で実験的に導入されている、学習サポートAIだ。なんか長くて難しい英語の略称でアイラ。
アイラは勉強だけじゃなくて、学校の事も色々教えてくれる機能がついている。そこが今までのAIと違うと所なんだって。杏ちゃんは自分のタブレットを取り出してアイラを起動すると、音声入力で質問する。
「アイラ、神隠葵さんについて教えて」
『神隠葵さんは、五年二組の生徒です』
「それだけ……? 他には?」
『申し訳ありません。他にお教えする情報はございません』
「あれ? おかしいな」
「杏ちゃん、どうおかしいの?」
「普通はもっと教えてくれるんやけどね。アイラ、近藤楓について教えて」
『近藤楓さんは、五年四組の生徒です。図書委員を務めており、得意な科目は国語と社会。苦手な科目は算数と体育です。三年生の時に書いた作文は、市のコンクールで――』
好きな食べ物、欠席日数、兄弟の有無、他にも色々。タブレットの画面いっぱいに、私の情報が表示されていく。というかこれ……。
「初めて見たけど、プライバシーとかどうなってんの?」
「だから七陣小で実験しとるんやて」
「大丈夫なのかなあ?」
便利なのかここまで丸裸にされると逆に不便なのか。まるで監視カメラで四六時中監視されているんじゃないかと思うくらいの情報量だ。
「そうだ、七不思議の事も聞いてみようよ。アイラ、七陣小の七不思議について教えて」
『不思議というものは、人間の主観によります』
「……しゅ、かん? わかりやすく」
『人それぞれの、感じ方次第ということです。よって七陣小学校における七不思議の数と内容は、人によって変化します』
なるほど。つまりは色々な噂話が集まったものが七不思議だから、その噂を聞いた人によって数や内容が違うってことか。神隠さんが持つ卒業アルバムは、ずいぶんと古い物だった。今年から使われているアイラに聞くのは難しいかな?
「言われてみれば、うちもその手の怪談いくつか聞いたことあるわ」
「やめてよ杏ちゃん、そんな話……」
「なに言っとんのや。あんた神隠さんとそんな噂の真相を確かめるんやろ?」
あ、そっか。
はあ、楽しみだけど当然不安もあるなあ。
「ま、心配せんでよ楓。うちも行くからさ」
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