シノ

「過去や人格が分かれば、暴力に訴えるなり人質取るなり弱み握って脅すなりできるんだけどね。結果から言えば灰戸の過去を追う作業は無駄だった」


 利発で愛くるしく誰からも好かれる。影の薄いボッチ。ボーイッシュなスポーツ少女。服のセンスがちょっと古いけど面倒見がいい。いつも済まなさそうに穏やかに笑う。化粧が得意なギャル。つっこみ気質で話がうまい。チャラついててやんちゃ、悪っぽくていけてる。真っ白にきらめくシンデレラ。ニヤついてばかりで、見えないところで財布を盗む。いつもぼんやりしていて常識に乏しいが勉強だけは人一倍できる。派手な子からいじめられている。天才肌で生意気。大人しくて読書好き。絵に描いたような王子様で女子から人気がある。模範的な優等生で先生のお気に入り。スキンシップが好きで寂しがりや。陰気で人見知りで自信なさげ。ワガママで子供っぽいがリーダーシップはある。仲間とトイレで酒を飲む。茶道部の大和なでしこ。ノーといえないお人よしで、転校生の面倒見役。石のような無口。いじめっ子グループのリーダー。無能。見た目通りの清楚清廉な少女。整髪剤の香りがくどい。いつも強気で意地っ張りだけどたまに優しさを見せてくれる。卒業アルバムでさえ死んだ魚のような眼をしている。ガサツで上から目線な乱暴者。姉御肌で料理上手、年下の面倒を見ることが得意。小心者でビビリ。お調子者のムードメーカーだが空気は読めない。泣き虫で甘えん坊。無邪気で素直で天真爛漫。人を疑うことを知らない純粋な天使。いつも明るく元気で前向き。友達思いで親切で優しい。天然ボケでちょっと抜けている。純朴で裏表がなく誰からも愛される。影のある寡黙な美少女。いつも眠たそうな顔つきをしている。毒舌家で皮肉屋。わがままで自己中心的だが根は繊細。マイペースで自分の世界を持っている。クールでドライな性格だが、意外にも涙もろい一面がある。人の気持ちがよくわかる聡明な人間。他人の機微に敏感。手先がとても器用。嘘をつくことが苦手。真面目で頑固で融通がきかないところがあり、それが災いして損をすることも多い。負けず嫌いで努力家。プライドが高く、なかなか本音を見せない。感情表現が豊か。よく寝ている。自分よりも他人を優先する性格で、そのせいかあまり人に頼らない傾向がある。また一度こうだと決めたら絶対に曲げようとしない意志の強さを持つ。基本的に善良であり、情け深い。ひどく不器用で何でも一人で抱え込んでしまいがち。やや自虐的で悲観的になりやすい。卑屈になることもしばしば。基本的にはポジティブシンキングの持ち主であるらしくどんなことでも肯定的に受け止めてしまう面もあるらしい。自分が傷つくことには極端に臆病でもあり、そのためしばしば自分をないがしろにしがちなきらいがある。恋愛に関しては奥手で鈍感。嫉妬深く束縛する傾向にある。異性に対して理想が高い。一方で恋をしてしまえば盲目となり、相手の欠点などすべて受け入れられるという、ある意味都合の良い性格の持ち主である。初対面でもすぐに打ち解けられる社交性の高さを持ち合わせる一方、極度の恥ずかしがりのせいで内向的に振る舞うことが多い。人付き合いは非常に慎重かつ丁寧なので誰に対しても優しく接する。親しい相手に対しては辛辣な態度をとることもある。


 ――これが、ひとりの人間に対する形容か?


 一家離散で祖母のもとにやってきたときなど顕著だ。地元の顔見知りに明るく挨拶して去っていったのに、その日の午後には陰気で無口な子供として、転校先や祖母に認識されている。まるで生まれた時からそういう性格だったみたいに。なのに、以前の友達に再会した時には、影を感じさせない明るい子供のままだったという。話を聞く限り、「イメージチェンジ」というレベルでなく性質の根本から変容している。


 仮面を剥いだと思えば、その下に新しい仮面があるだけだった。


「誰にでも裏表はあるもんだけど、それにしたって灰戸の人物像は『よくわからない』。ブレることにブレないって感じ、相手取るには限界がある……」


 そうしてきららは目を伏せた。彼女がこんな人間になってしまった一因は麻薬プラントだろう。意地悪な継母に虐められる、哀れで愚かな灰被り。あだ名の通りだ。


「できれば組織の大元を叩ければいいんだけど。そっちのほうが派手じゃん?」


「そうだな。だが、八房一人助けるならともかく麻薬組織なんかとどう戦うんだ。不可能だろ」


 広瀬の問いに、きららは笑みを深くした。


「本当に不可能か考えてみよう」




 コンビニで軽い夕食を買い入れ、広瀬ときららが向かったのは椎名家だった。椎名が行方不明になっているからか、夜も深いというのにまだリビングには電気が付いている。きっと一人息子の帰りを待ち続けているのだろう。広瀬はその灯りを見つめてふっとため息をついた。


 玄関に、毛並みのつややかな体高の高い犬が繋がれている。尻尾を元気よく左右にふり、くりくりした瞳できららを見つめていた。


「よーしよしよし」


 椎名家の監視カメラの死角を縫うようにして犬の前にしゃがみ込み、まずは下から手の匂いを嗅がせてやる。シノは手の匂いを嗅ぐなり大人しくなって、地面に寝っ転がって腹を見せて服従の姿勢を取った。広瀬は片眉を上げ、一部始終を興味深そうに見つめていた。


「動物に好かれんだな」


「犬の扱いは上手いのさ。将来ドッグトレーナーになれるかも」


「テメェの進路なんざどうでもいいけどよ、犬っころなんて手懐けてどうすんだよ」


 口端で笑う。それからポケットに入れていた椎名八房の私物――ハンカチを取り出して、シノに嗅がせてやる。


「お前の飼い主がいなくなってるのは知ってるだろ? お前は賢い子だ。ぼくとこの男を、椎名のところに連れてってくれるよね?」


「わん!」


 夜闇の中に、シノの元気な返事が轟いた。

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