第5話「昼ご飯」

 午前中の授業が終わり、私は昼ご飯を食べようとお弁当を開けた。

 うちの学校はお弁当を持ってくることになっている。どうやらこれはめずらしいそうだが、もう慣れてしまった。慣れというのはすごいものだ。

 ただ、私は朝が弱いので、いつもお母さんに作ってもらっている。女の子らしくたまには自分で……とも思うが、それよりも寝ていたい気持ちの方が大きかった。寝ることは私の特技だ。誰にも邪魔をさせない。邪魔する人なんていないけど。

 今日はなんとか授業中起きていることができた。途中眠くなりそうにもなったが、なんとかこらえた。ふふふ、私もやればできる女だからね。


(よし、食べようかな、いただきまーす。あ、今日も好きなものがいっぱいあるー)


 ごぼうのきんぴら、のりっこチキン、卵焼きなど、私の好きなものがお弁当の中で食べて食べてと言っているようだ。まずはご飯かと思って箸をつけようとすると、


「――あれ? 若月、一人で食べてるの?」


 と、声をかけられた。見ると白石くんがこちらを見ていた。


「あ、うん、いつも一緒に食べてる友達が今日は休みだからさ、一人で食べようと思って」

「そっか、あ、俺も一緒に食べていいかな?」


 そう言って白石くんは隣の席に座った……って、え!? い、一緒に食べる……?


「……どうした? やっぱり嫌か?」

「え!? あ、いや、そんなことはないよ……うん、いいよ」

「そっか、よかった。じゃあ食べよっか」


 白石くんもお弁当を開ける。さすが男の子、お弁当箱も私のより大きかった。まぁたくさん食べて当然だよなと、私は謎の納得をしてしまった。

 でも、一緒に食べているということは、何か話すべきなのだろうか。チラッと横を見ると、カッコいい白石くんの横顔があった。わ、私はちょっとドキッとしてしまった。


「……そういえば、今日は寝てなかったな、授業中に」


 白石くんがぽつりとつぶやいた。ま、また見られていたのか、なんだか恥ずかしい気持ちになった。


「う、うん、私だってやればできる女だからね!」

「それだけでドヤ顔するのはどうなんだ……まぁ、若月も頑張ってるってことか」

「そ、そうだね、あ、白石くんは授業中眠くなったりしないの?」

「うーん、あんまりならないかな。先生の言うこともメモしているから、寝てる暇なんてなくて」


 白石くんのノートには、黒板に書かれたものと、先生が口頭で言っていたこともサラっと書かれてあったことを思い出した。そうか、それだけ授業に集中しているということなんだな。すごいなと思った。


「そっかー、すごいね、それでいてあんなにノートが綺麗だもんね、尊敬するよ」

「いやいや、大したことはないよ。若月だってできるよ」

「うーん、私は無理かなぁ、黒板に書かれたこともメモできない時があるからね!」

「そこ笑顔で言うことじゃないんだが……まぁいいや。もし書けてないところあったらまた見せるから」

「うん、ありがとう!」


 あああ、またあの美しいノートを見せてもらえるかもしれないのか。これはわざとノートをとらないで白石くんに見せてもらうのもありだな……とか思ってしまった自分が悪い奴だなと思った。

 白石くんのノートに恋をしていることは秘密だ。もちろん白石くんにも。バレたら見せてもらえないかもしれないから、一人こっそりと楽しむことにしようと思った私だった。

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