第3話「カッコいい」

 次の日、私はいつもより早く学校へ向かった。

 もちろん、昨日白石くんが『明日早めに学校に来て』と言っていたから……なのだが、私はアラームを止めてそのまま二度寝するところだった。夢と現実の間にいる時に、昨日のことを思い出してガバッと起きた。危なかった、もう少しで白石くんとの約束をすっぽかすところだった。


(ふふふ~、白石くんのノートがまた見れる~)


 私は大急ぎで朝ご飯と身支度を済ませて、飛び出る勢いで家を出た。お母さんが『この子どうしたのかしら……』というような目で見ていた気がするが、気にしない。早く学校に行きたいだなんて私らしくないな。でも今ならスキップができるくらいの勢いだ。恥ずかしいのでしないけど。

 軽く走ったりしながら学校に着いた。時間はまだ早いのであまり生徒はいないようだ。あ、野球部が朝練をしているみたいだな。すごいな、毎日この時間に練習しているのか。私はバスケ部に所属しているが、今のところ朝練はない。勝手にホッとしていた。

 いつものように階段を上がって教室へ行くと、入り口の扉が少しだけ開いていた。もう白石くんが来てるのかなと思って扉を開けたら――


「……あ、おはよう」


 挨拶をしてくれたのは白石くんだ。どうやら本を読んでいたみたいだ。しかし私はその直前の白石くんの横顔を見てドキッとしてしまった。たしかに白石くんは鼻もシュッとしていてカッコいい……のだが、横顔が綺麗だったのだ。


「……あ、お、おはよう、早いね」

「まぁ、約束したからな。でもちょっと早すぎたかも」

「あはは、すごいね。私なんて危うく二度寝するところだったよ」

「……やっぱり若月は寝るのが得意みたいだな」


 白石くんにそう言われて、私はちょっと恥ずかしくなった。うう、こいつ授業中も寝て、家でも寝まくっている女だと思われてそう……。


「あ、あはは、私寝るのが得意みたいで……」

「それを特技にしてしまうのはどうなんだ……まぁいいか。ほら、昨日のノート見せるから、写しなよ」

「あ、ありがとう~!」


 私は白石くんからノートを受け取って、自分の席でノートを開く。あああ、今日も白石くんのノートは美しい……綺麗な字と分かりやすい色使い。ノートに恋をするというのはやっぱりおかしいのかな。


「ほらほら、ボーっと見てないで早く写した方がいいんじゃないか?」


 白石くんのノートに見とれていると、私の前の席に白石くんが座った。あ、あれ? そこに座るの? ということは私の字が見られてしまう。恥ずかしい……。


「え、あ、し、白石くん、私のヘタクソな字見て笑わないでね……」

「笑わないよ。字は人それぞれだからね、それがいいところだと思う。若月の字も嫌いじゃないよ」


 そ、そっか、白石くん優しいな……見られていることはちょっと恥ずかしかったが、私はノートにペンを走らせる。途中で「あ、そこ赤で書いておいた方がいいかも。たぶんテストに出る」と、白石くんはアドバイスをくれた。な、なるほど……と思いながらふと顔を上げると、カッコいい白石くんの顔が目の前にあって、私はドキッとしてしまった。


「……ん? どうした?」

「あ、い、いや、なんでもない……」

「そっか、ほら、もう少しだから集中して」


 私は慌ててノートに目を戻す。美しい白石くんのノート、そしてこんなに近くにカッコいい白石くんがいる。あ、あれ? またドキドキしてきた。なんだろう、この気持ち……。

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