第9話 義妹フィティリナ
そこに立っていたのは――
さらさらとした藍色のストレートロングヘアは、腰の辺りまで伸ばされている。大きくくりっとした瞳は、ミスフィーズと同じ蜜柑色だ。ワインレッドのカチューシャを付けており、その近くから出ているはね毛が可愛らしい。
アルマは驚いたように、来訪した少女の姿を見つめていた。
すると突然――少女は、アルマに飛び付いた。
「えっ……ええ、ええっ!?」
状況が
「ねえさまー! こんにちはですわ、ねえさま!」
「ねっ……ねえさま? わたしのことですか? ま、まさか……生き別れの妹ですか、あなたは!?」
「あははっ、何を言っているのですか、ねえさまは! フィティのお名前は、フィティリナ=タシェラート。にいさま――ティルゼレア=タシェラートの妹でしてよ!」
その言葉を、アルマは少しの間心の中で
「…………。……ああっ、そういうことですか!
「そうですわー! ねえさま、ぎゅー!」
「なっ、何故か義妹さんからの好感度がカンストしていますよー! わたし何かしましたっけ!」
「もう、義妹さんなんて他人行儀な呼び方はやめてくださいまし! フィティでいいですわ」
「わっ、わかりました、ええと……フィティ!」
「きゃー! 自分から提案したのに、何だかどきどきしますわ! フィティの顔、赤くないでしょうか? ううう、恥ずかしいですわ……!」
抱き付くのをやめて、少女――フィティリナは、両手で自身の頬を包み込む。アルマはそんな姿を見ながら、(おおお……急に可愛い義妹ができちゃいましたよ……)と心の中で呟いた。
相手が年下なこともあり、会話を主導しなければと考え、アルマは口を開く。
「ええと、フィティはどうして、わたしのことを好いてくれているんですか? お兄様の他にきょうだいがいなくて、新しく姉ができるのが嬉しかった……とかですか?」
「ああ、それも
「ええっ、そうなんですか! ちなみに、理由をお聞きしても?」
「構いませんわよ! ですが、ねえさまにそれを説明するには、とある本をお見せしなければならないのですわ」
「とある本? 何だか気になりますよー、ぜひぜひ見せてください!」
「いいですわよ! 少し待っていてくださいまし、ねえさま!」
フィティリナはそう言い残すと、部屋を飛び出て駆け出す。そんな後ろ姿を見ながら、アルマは「いやはや、元気ですね……」と呟いた。
数分ほどして、十冊ほどの本を抱きかかえたフィティリナが戻ってくる。
「お待たせしましたわ、ねえさま!」
フィティリナはアルマの部屋のテーブルに、丁寧に本の山を置いた。それから頂上に置かれていた一冊を手に取ると、アルマに向けて表紙を見せる。
その本の題名を、アルマは声に出して読み上げた。
「『秘められた恋愛 〜魔族の私はそれでも、雪桜の貴方が好きです〜』……!?」
フィティリナは、「そうなんですの!」と目を輝かせる。
「タイトルからもわかる通り、この本は魔族と雪桜の民の禁じられた恋愛を描いているのですわ! 俗に言われる『
かつてない早口で語るフィティリナに、アルマは目を見開きながら「なっ、なんか愛がやばいくらい伝わってきますよー!」と言う。
フィティリナは掲げていた本を、アルマにずいと押し付ける。
「フィティ、ねえさまにもぜひ『ひめあい』を読んでほしいですわ! ねえさまと『ひめあい』について語ることができたら、フィティはすごく幸せですの!」
「わ、わかりました! そうしたら、こちらの一巻をお借りしてもいいですか?」
「勿論ですわ! フィティはねえさまともっとお喋りしたくもありますが、記念すべき『ひめあい』の初読書を邪魔する訳にはいかないので、一旦失礼しますわね!」
フィティリナはアルマに本を手渡すと、颯爽と部屋から走り去った。
残されたアルマは、改めて本の表紙――魔族の少女(やたら顔がいい)と、雪桜の民の少年(やたら顔がいい)が並んでいる――を見つめながら、ぽつりと呟く。
「いやはや、世界は広いですね……」
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