042 - 斬!・斬!!・斬!!!

「ミア、プルクラ。ここからは全部解放しろ……出し惜しみはなしだ」

「わかった、ミモねえ

「ぜんりょくでいくのー」


 第三グループが探索中の南へと足を進める中、ミモ姉の許可を得た私は『管猫闇拡器官チューブセンシズ』をフル稼働、プルクラは『仮聖獣化ホリィニマル』で体躯を2メルトまで大きくし、外見を『デカくてやばそうな動物』に見えるよう演出する。


 管猫闇拡器官チューブセンシズを意識して使うのは初めてだけど、これすごいな。所々にゴブリンモンキーの痕跡が目で、鼻で、そして本能で感じ取れる。それに混じって複数の人間の匂い……これがどうやら第三グループの足取りだろう。それらがまるで道標のように行くべき方向を指し示していた。


「どうだミア? 奴らゴブモンの気配は……オクレ」


 キャプテンは冷静に周囲を警戒しながら、視線をこちらに向けずに落ち着いた声音で問いかける。そういえばミモ姉も同じように私に話しかけていたな、と思い出す。でも、『オクレ』ってなんだろう……?

 そんな疑問を感じ取ったのか、


「『オクレ』っていうのはねミアちゃん。今みたいにお互いが視線を合わせられない状況で、自分の伝えたいことを言い終わった際に言う、私たちセンシブル独自の合言葉で……そうねえ、『言い終わったので返事をどうぞ』って感じかしら。もう少し伝えたいことを追加したいのに、相手が答え始めたら場が混乱するでしょ? ちなみに会話を終了させる場合は最後に『オワリ』って付けるのよ」


 すぐ後ろを歩くアンジェさんが小声で教えてくれた。

 ふむふむ、なるほど。お互いの顔を見ていれば会話のやり取りのタイミングは図れるけど、こういう状況では難しいもんね。実に理に適っているし、私たちも取り入れようかな。


 なので私もそれに倣って返答する。


「……キャプテン、気配は感じ取れませんが奴らゴブモンと第三グループの匂いは残っています。道はこのまましばらく直進で大丈夫です……オクレ」


 やばい、ちょっとカッコいい。冒険者っぽい。

 私、この任務が終わったら『私たちも取り入れよう』ってミモ姉に進言するんだ……。


 背後から暖かい気配を感じるが、アンジェさんの『大変よくできました』オーラだろう。ミモ姉とはタイプが違うけど、世話好きのお姉さん、って感じで私には心地よい。そんな高揚を感じていれば、


(母さまそれはふらぐなのー)


 と念話を飛ばしてくるプルクラ。なんだフラグって。まぁいいや。


「ミア、了解した。直進する……オワリ」


『センシブル流』の会話――通信を終え、再び意識を探索に引き戻す。


 ほどなく歩けば徐々に匂いが濃くなっていく。

 敵は近くにいる。そして気配が――。


【Gegyagyagyagyaaaaaa!!】


 進行方向の先から不快な咆哮が飛んでくる。

 一層管猫闇拡器官チューブセンシズを全身で稼働させ、何が起きているのかを探る。


 これは……!? まずい、第三パーティーが襲われてる!


「ミモ姉、キャプテンっ! この先約1キロメルトで第三グループ接敵! 戦況は……劣勢……オクレ……ッ」

「!? ミア、敵の数はわかるかっ!……オクレっ!」

「ミモ姉! 今探ります! ……敵は複数……総力戦です! それと……明らかに気配のおかしい奴がいます。どうしますかキャプテン……オクレっ!」


 ひとまずの判断をキャプテンに委ねた。ミモ姉でも良かったのだが、基本ソロのミモ姉に対してキャプテンはパーティーリーダーだから、より的確な判断を下せるかと思ったのだ。


「この場で一番速く現場に到着できるのはミアとプルクラだが……」

「ウチがいくのー!」

「プルクラ!? 大丈夫なの?」

「ウチ、どーぶつだからけーかいされにくいと思うのー。きゃぷてん、オクレなのー」


 なるほどわかったと一つ首肯で返せば、すぐさまキャプテンも、


「了解した! ではプルクラは斥候として先行し現場へ。交戦は自己判断、現場把握を最優先。そして状況は念話でミアに報告! 俺たちは追って現場に向かう! オワリ!!」

「「「「「了解!!」」」」」


 言い終わる間も無くプルクラは一陣の風を残して現場へ。

 残された私たち一行も、一路不穏を滲ます現場へと駆け出した。



† † † † 



(母さまー、ぼーけんしゃたおれてるのー)

(!? て、敵は?)

(おなじくらいしんでるのー。でもてきがごひきでのこったぼーけんしゃもたいへんそうなのー。さんにんたたかってるのー)


 プルクラの報告通り、そして私が感じた通りに戦況は最悪……いや……今、って言った? ……もしかして!?


(ねえプルクラ。『倒れてる』ってことは生きてる冒険者もいる、ってこと?)

(ふたり生きてるみたいなのー。たすけるー?)

(……少し待って)


 おそらくその二人は生き残るために死んだふりをしているのかも。それでいつまで奴らを欺けるかは分からないけど。


「……キャプテン、プルクラから報告です。敵味方ともに死亡あり、死んだふりをしてやり過ごしている冒険者二名、戦闘可能の三名が五頭と交戦中です。戦況は変わらず劣勢、プルクラが言うには死んだふりの二人は救助できそうとのことです……オクレ!」

「了解。安全に救出できるなら救出の後、二人を採掘場へ速やかに搬送、終了後はブリッツさんに次の指示を仰げ。できそうか確認しろ……オワリ!」


 すぐにプルクラへ念話を返すと、


(おまかせなのー! ……グルアアァァァッ!!)


 一言残し念話が途絶えた。そういえばプルクラとこれだけ離れるのは初めてで、一抹の不安がよぎる。ただ彼女は強いし、何よりプルクラのことを信頼している。彼女が出来ると言うのなら出来るのだ。今は彼女プルクラに任せよう。



† † † † 



「やべえぞ、囲まれちまった」

「俺ら三人でどうにかしないと生き残れねえぞ!」

「わかってる! 今は集中しろ!」


 残された三人の冒険者は各々の思考を口にするが、実際は死を覚悟していた。どうにか数は減らしたが、冒険者たちも半数以上が奇襲の餌食になった。今だ五頭のゴブリンモンキーと対峙、肝心のドス黒く邪悪な気を纏っていたボスらしき個体は一人を惨殺し、すぐさま樹上に移動、気配すら今は消失していた。


(頼むぞお前ら……)


 一方死んだふりでやり過ごす一人の冒険者。決して怖気付きこうしているわけではない。事実彼は左足をやられ、立つこともままならないのだ。


(救助は……期待できないか)


 もう一人の冒険者もまた右腕を激しく負傷し、武器を取ることもできず、今できること――死んだふりでやり過ごすことに専念した。


 徐々に戦う三人が追い詰められる様を倒れながら見守れば、不意に今までの人生――冒険者としての生き様が頭をよぎる。

 

 あいつらとは喧嘩もしたが楽しかったな。

 あぁ……そろそろあいつらもられるのだろう。

 楽ではなかったが冒険者稼業も捨てたものじゃなかった。

 もしも生きて帰れたら、また冒険して美味い酒でも――。


 ザンッ! ザンッッ!! ザンッッッ!!! 


 唐突に惨たらしい斬撃が唸りを上げ、三つの頭がぼとりと落ちる。

 戦う三人を庇うように位置取った白き巨獣は矢継ぎ早に――。


【かずはへらしたのー! のこりにひきたおせるー?】

「お、お前は……あのテイマーの嬢ちゃんの仲間か?」

「お、おう! どうにか二頭ならいけるぞ!」

【ウチはあそこのふたりをたすけるのー! 後からみんなおーえんにくるのー!】

「な! まだ生きてるのか!? ……わかった。こっちはどうにかする、頼むぞ! ……お前、名前は?」

【ウチはプルクラなのー! じゃあがんばるのー!】

「頼んだぜプルクラ! よし、お前ら気張れよ!」


 颯爽と現れた白き巨獣――プルクラは迅速に二人を背中に乗せ、一気に採掘場へと疾風の如く走り出す。


【母さまー、ふたりたすけたからさいくつじょういくのー!】


 冒険者ミア・ラキスの従属動物として、充分な成果を残して。

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