033 - シリンディアと管猫伍衆(?)

 人獣化ヒュムニマル管猫女王ノ型モード・チューブキャット


 なるほど、大きくならない場合は人獣化ヒュムニマルなのか。

 とはいえ意識して言ったわけじゃなく、自然と口から出た言葉。


「まぁまぁミア様。素敵ですわよ」

「母さますてきですのー!」

「なんて言っていいのか分からないけど……すごいバランスだな」


 私の手をまじまじと見て感想を漏らすミモ姉。その気持ち分かります、私もです。


 身長はもちろん『巨人獣化ヒュムギガニマル』ではないから変わっていない。だから衣服もそのままだ。耳がプルクラのように獣耳に変わってもいない。唯一変化したのは腕と手だ。

 長さは変わっていないが、太さが著しく違うのだ。上腕は二倍ほど、前腕に至ってはそのさらに倍。拳に至っては私の顔くらいあり、プルクラとも違う、太く真っ直ぐな爪が生えそろっている。そしてどうやらこの爪はさすがネコと言うべきか、出し入れも可能になっている。


 何回か腕を回し、拳を握れば、これで何が出来るのかがじんわりと頭に染み込んでくる。


「みんな、少し離れて? ……“獣腕掘削チューブディグ”!」

「「!!」」

「さすがですわ! ミア様!!」


 ちょっと撫でただけで地面に深さ直径50センテの穴が空いた。チューブキャットの本能を感じてるのか妙に楽しい。よし、このまま掘ってみようかな!



† † † † 



「おいおい……ミアの奴、どこまで掘るんだよ?」

「母さまほりすぎなのー」

「我でも……いや、我なら同じようにできるのでしょうね」

「なんかもう底が見えないぞ……大丈夫かあいつ?」

「えぇ。我の力を使っているのですから危険などありませんわ」

「母さまのにおい、なくなっちゃったのー」

「プルクラちゃん、大丈夫ですよ。我はミア様の匂い、追えていますもの。今は平行にあちらの方に掘り進め……あら? そろそろ戻ってくるようですわよ?」



† † † † 



 ふう。これが地上か。どのくらい掘ってた……って、みんなあんな遠くにいる!? そんなに掘ってた?

 かなり離れた場所からみんなが呼んでいる。目測で30メルトくらいだろうか。

 急いでみんなの元へ駆け寄って、


「かなり面白かったよシリンディア!」

「それは何よりですわ、ミア様」

「今度は地中を制覇するのかよ……もう訳分からなくなってきたな!」

「母さまわけわからないのー」


 訳わからないのは私の方だけど、これ獣腕掘削って、もしかして採掘が楽になるんじゃないだろうか。まだ力加減が難しいけど、十全に使いこなせれば完全にじっちゃんの代わりになれるじゃないか!


 自然とにやけてしまう顔をシリンディアは見逃さなかった。


「ミア様? 次、解ってますわよね?」

「まだあるのかよ……もうお腹いっぱいだぞ」

「まだあるのー?」

「まだあるよー!」


 プルクラの緩い口調に乗っかって、少し離れた場所に置かれた大岩――1メルトほどのそれに歩み寄り、呼吸を整え腰を落とし、右拳を叩き付けた。


 バカアアアァァァン!!


 自分でも引くくらいに粉々に粉砕され、辺りを粉塵が立ち込める。なんだこれ……。ここまでだとは思わなかった。全力で殴ったわけでもなく、七割くらいの加減で殴ったんだけど。

 ならば全力でと隣にあったさらに大きな岩に向けて、今度は爪を出して突いてみた。


 ズゴオオオォォォン!!


 恐る恐る岩に顔を向ければ、直径50センテほどの穴が貫通して、向こう側で唖然としているみんなの顔が見えた。

 ふむふむ、拳で粉砕、爪で突撃か……力加減が肝になるかな……ん? ミモ姉どうしたの?


「えーとミアさん? お前、どうなりたいんだよ……」

「うーん、村と森を守る人……?」

「いいですわね、ミア様なら可能かと思いますわ」

「母さまかっこいいのー!」


 思わずそんな台詞が口をついたけど、全くの嘘で出た言葉じゃない。

 シリンディアとその子どもたち、もちろんプルクラも。そしてじっちゃんじいちゃんミモ姉。守るものならいくらでもある。たかだか15歳の小娘の妄言とあしらわれてしまうかもしれないけど。だけど私にも出来ることはある……あるはずだ。


 まずは身近なことから片付けていこう。

 直近の問題は採掘場の水なんだけど、これに関しては、


「申し訳ないわ。それは我らのせいだわ」


 とシリンディアがバツ悪そうに告白した。なんでもサルの脅威から逃れるために、普段の生活圏より深い穴を掘った際、未発見の水脈に運悪く当たってしまった。修復する時間より子どもたちの安全を優先し放置した結果、こうして採掘場まで水が染み出した……ということらしい。


「今はもう子どもたちの心配もなくなりましたから、我の護衛たちに修復させましょう……ミア様。我とミア様の力、護衛に授けても?」

「ん? 授ける? えっと、どうぞ」

「お許し頂きありがとうございます。では――」


 シリンディアは後ろに控える五頭に何やらわからない『チューブキャット語』で話し始める。そしてそれぞれの頭を順番に触れていった。

 護衛たちの身体が閃光を放ち、濃墨色の体毛がプルクラの斑紋と同じくらいの薄墨色に変化した。


 五頭の護衛たちは私の足元に横一列に並ぶと、恭しく頭を下げて、


「我らシリンディア様の鉾となり盾となる者――管猫伍衆・甲にございます。此度はミア様のご助力、感謝いたします」

「あ……どうも、こちらこそ」

「! 全員話せるようになったのか!」

「おはなしできるのー!」

「我も半信半疑で試してみたのですが、どうにかなるものですわね」


 私が直接テイムしていないから、真っ白にならないのかな。でも会話はこうして出来るからこちらの考えも伝えやすいよね。


「えっと、この採掘場の水を止めたいんだけど、出来るのかな?」


 そう尋ねると、管猫伍衆・甲の隊長らしき隻眼の個体が一歩前に歩み出る。

 元々視力がないから、右眼の傷は日常生活に支障はないだろうけど、どうにも痛々しい。その傷に手を添えて野生の治癒ワイルドヒールをかけてあげた。

 

「これは……ミア様、誠に感謝いたします」

「どういたしまして……えっと……シリンディア? この仔たちは普段なんて呼んでるの?」

「我に名前がなかったように、これらにも名前はありませんの。もしお手数でなければミア様が……いえ、それはやめておきましょう。ですが、命名はミア様がしていただき、それを我が皆に伝えますわ」

「あー……私がテイムしちゃうと主が変わっちゃうよね。うん、わかった。シリンディア、念話で伝えるね?」


 とはいえいきなり五頭の名付けとなると、なかなかの頭脳労働である。

 深く考えても仕方がないし、ここは速度重視で。

 早速五頭の格付け、つまり偉い順から付ける名前を念話で伝える。


「承りましたわミア様。では……左から……隊長『アルファ』副長『ブラボー』三席『チャーリー』四席『デルタ』五席『エコー』。これからはそう名乗りなさい」

「「「「「御意!」」」」」


 こうして偉い順に名前を付けたけど。

 偉い順とはいっても見た目が一緒だから、正直ほとんど見分けが付かないんだよね。

 私はシリンディアの能力である『臭覚』で区別できるけど、ミモ姉には無理だろう。この場合はどうしたら……あ、そうだ。


「みんな、さっきの名前順に……偉い順に並んでくれる?」

「? 承知いたしました」


 迅速に縦一列に並んだ管猫伍衆・甲。さて、これから試すことがうまくいけばいいんだけど。


 先頭のアルファの左前肢を優しく握り、イメージを明確にしながら野生の治癒ワイルドヒールをかける。元々が濃墨色ならそれを再生すれば上手くいくはずだ。


「……よし、成功!」

「なるほどな! これなら分かりやすいよな!」

「このようなことまでできるとは……ミア様は何者なのでしょう?」

「母さまは母さまなのー!」


 その後は一気に残った四頭に同じく野生の治癒ワイルドヒールを左前肢に施した。

 アルファには五本、以下四本から一本の濃墨色の環状の体毛を手首に再生させる。うん、どこかブレスレットみたいでかっこいい!


 こうしてシリンディアという二人目? の従属動物と五人? の仲間が増えたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る