032 - ……なんだこれ?(二度目)
「ウチがそだてるのー!」
「「……はぁ!?」」
プルクラは時に、というか沈黙から口を開く時は大体突拍子もないことを言ってきた。
その度に驚かされてきたのだ。今更何を言われても……って何言ってるのこの子は!? 思えば傷を治したり大きくなったり小さくなったり。まぁこれはいいだろう。誰にも迷惑かけてないし命も掛かってないし。
でも『
「ウチがここでそだてるのー」
(! そんなこと無理だよ……)
言ってプルクラはその場で寝転がり、腹部を空に向けた。どうやらフクロオセロットの最大の特徴である『育児嚢』で育てる、と言っているらしかった。
プルクラは身体だけを見れば充分に成獣だ。でも中身はまだ未成熟の子どもなのだ。そんなこと許容できるはずが――。
【あら……そちらにいるのは……フクロオセロットさん……ですわね? 近づいてもよろしくて?】
不意にこう伝えてくる女王チューブキャットに許可を出すと、徐に近づき、念入りにプルクラの匂いを嗅ぎだす。
ややあって女王は小さく頷きこう伝えてきた。
【この子は本当にフクロ……いえ、今はいいでしょう。ええと……ミア様、でよろしいかしら。この子なら育てられると思います。匂いで分かりましたわ。どうかお願い出来ないかしら?】
【そ、そんな簡単に決めちゃっていいの!? チューブキャットの未来にも関わるんじゃないの!?】
【……えぇ、仰る通りですわ。どのみちこの子らは死ぬしか道がないのですわ。我が育てられないものを後ろの
【そんな……他に方法はないの?】
【それは無理ですわ……これがチューブキャットの生き方なのですもの】
【じゃあ、『水脈の管理者』はどうなるの?】
【……散り散りになった仲間たちなら、この森の水脈管理はできるでしょう。しかし……これ以上子孫を残せないのなら、我らはもう……
自然に生きる者たちは何かしらの役割がある。そしてチューブキャットたちは、このビャッコの森の地下水脈を管理し、豊かな森を人知れず実直に守ってきたのだ。その彼女たちがいなくなったらこの豊かな森は……?
その点私たちヒト族はどうだ? ただただ森の恵みだとか耳障りのいいことばかり言って搾取するだけ。そのぶん森に何かお返しをしてきたか? せいぜい神獣様に感謝するだけで、具体的に何かしてきたか?
【……分かったよ。うまくいくか分からないけど、私たち……プルクラに任せて】
【まぁ……その子はプルクラというのね? 名前があるなんて素敵ですわね。我にも名前があればあるいは……】
【名前が欲しいの? なら――】
思った瞬間、また手順が流れ込んできた。これって……。
そうか、女王の時とプルクラの時と何が違うのか解った。
【――私が名前を付けてあげる!】
再び女王に向けて手をかざし、テイムの続きである名付けの詠唱を始めよう……恥ずかしいけど。
† † † †
「……さっきからミアの奴、黙りっぱなしだけど、あれってあのチューブキャット? とやらと念話してるんだよな?」
「……たぶんそうなのー」
「なんだ? 歯切れが悪いな……っていうかお前、本当にあのチビ共、育てられるのか?」
「おまかせなのー!」
「そこは言い切るんだな。まぁ何があってもプルクラがそう言うのなら出来るんだろ……ってミアの奴、何やってるんだ? とっくにテイム出来てるんだろ? ……おい、なんか光り始めたぞ!」
「きたのー!」
「来たって何が……もう一段階ってことか!?」
† † † †
「従属しちゃったキミに名前をあげちゃう! ……シリンディア! アディショナルテイミング! カモンレッツゴー!」
……なんだこれ?(二度目)
さっきもそうだけど、今回のコレ、なんでプルクラの時と違ってこんな軽いの? とまぁ思ってみたものの、実は頭の中のテイマーミアが理解してるよこれ。『テイムする動物によって詠唱は違う』んでしょ。
盛大に項垂れて溜息を漏らせば、なんか女王……シリンディアの様子がおかしい。身体中から蒸気のようなものが立ち込め、その姿を覆い隠してしまう。
ほどなく蒸気がシリンディアの頭上で渦巻くと、一気に大きな竜巻に変わり空に消えていった。
「お、おい……ミア? それ……」
「うん、名前をつけるとこうなる……みたいな?」
「みたいなのー!」
目の前に現れたのは。
それまでの濃墨色の体毛を綺麗に洗い流したかのように、真っ白に変貌したチューブキャットの気高き女王――シリンディアの姿だった。
ここまでプルクラと全く同じ過程で白化したシリンディア。でも、プルクラと異なるのは『大きさがそのまま』であることだ。でも、ただでさえアンバランスな太い前肢と爪が一回り大きく変化していた。
そして、それまで頑なに閉じられていた両眼が開き、案の定私と同じオッドアイに変貌している。ここまでは想定内だ。一方で、不思議そうに辺りをきょろきょろと見回すシリンディア。
そして。
【あぁ……世界は何て綺麗に彩られているのでしょう!】
【! もしかして……視えるようになったの!?】
【えぇ、えぇ……。こんなにも世界は美しい……我らが守ってきた森はこんなにも……。まぁ! あそこに綺麗で尾の長い鳥が……優雅で美しいわ……】
ん? 鳥? 辺りを見回してみてもそんなものはいなかった。森の全てを自身の目で謳歌するシリンディア。その視線の先を見やれば、遥か遠くに七色模様の鳥が飛んでいた。微かに私にも見えるが、尾が長いとかまでは分からないんだけど……。
【ねえシリンディア? あんな遠くのものまで見えるの?】
【えぇ! よく見えるわ! ……なるほど。プルクラちゃんはこうやって……ミア様、我の頭に手を添えてみていただける?】
【あ、うん……こう?】
脚が短いシリンディアの頭に触れるため、膝をついて頭にそっと手を添える。今度はどんな……。
この『自分とテイムした生き物』の全てが混じり合う感覚。まだ二度目だけど、気持ちいいとも言えるし悪いとも言えるこの感覚は、嫌いじゃないかもしれない。
「……これでお二人とも話せるのかしら?」
「! ……まぁプルクラがそうだったんだ、今更か。私はミモザ、ミアの姉みたいなもんだ。よろしくな! シリンディア……様?」
「これはご丁寧にありがとうございます、ミモザさん。でも、ミア様に従属した今は、我に敬称は不要ですわ。どうか呼び捨てでお呼びくださいまし」
「プルクラはプルクラなのー! よろしくねディアおねーちゃん!」
「まぁまぁプルクラちゃんは可愛らしいですわね。こちらこそ善しなに。では早速ですがプルクラちゃん。我らの子をよろしく頼みましたわよ」
自己紹介が済んだ後、私とミモ
こうしてプルクラの育児嚢が開くのを見たのは実は初めてだ。少し指を入れて中を覗くと、そこはかとなく
「よっぽどお腹が空いてたんだね……これでもう安心だねシリンディア」
「えぇ……これで我らの種の灯火が消えることはないでしょう……ところでミア様。貴女、プルクラちゃんの力、使えますわよね? でしたら……私の力も解ってますわよね?」
「う、うん……わかってるよ。使えることも理解してる」
「! ほんとか!? どんなんだよ?」
「みたいのー」
そうきますよね。幸いなことにシリンディアの
「じゃあやってみるね……“
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